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作品 - 20160220_789_8637p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


さくら

  紅茶猫

失意のどん底にあって
まさに
失意のその最中に
ふと
見上げた
春の空
見渡す限りに
桜満開

見知らぬ街の見知らぬ桜
僕はこの街と仲良くするつもりはなくて
けれど
どこかなつかしいこの桜並木を
立ち止まり
しばらく眺めていた

夢はどこへ行ってしまったのだろう
肩に掛けたカバンが重たい

上り坂になっている国道のすぐ脇に
その寮はあった
玄関にネズミ取りのカゴが置かれている
そう
僕はネズミ取りのカゴの中へと入っていくのだ

無事に抜け出せるのか
何の保証も無い

一年もそこで暮らすうちに
ゾンビのような風貌に
顔が変わってしまった
まるで
ささくれ立った心が
全身の至るところから噴き出しているかのように

前髪をかき分けて覗く世界は
とても狭いものだった

ようやく迎えたその日その朝
空は隅々まで青く晴れ渡っていた
この日僕は
まばゆいばかりのひかりの集団に
さよならをするために
会場へと急いでいた

ここは別世界
近付いただけで地鳴りがする
歓声と
誇らしげな太鼓の音と
喜びは一瞬で駆け抜けていって
悲しみはしづかに黒く地面に広がっていた

「おめでとう」
そう声をかけられた

用意していた答えを
僕は丸めてポケットへ押し込んだ

あの街へ戻ることはもう二度と無いだろう
あの桜の下に立つことも

あれから季節は何度も巡り
花を気にすることも無くなっていった

まるで
捨てられないポケットの花びらのように

あの日見上げた
満開の桜ほど
美しいさくらを
まだ見たことは無い






※推敲しました

文学極道

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