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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
僕が小学生の頃、本当に本当に、その花が怖くて怖くて仕方なくて、本当は本当は祖母の家には行きたくなかったのだけれども母に連れられて週に三回くらいは行っていました。
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
僕が中学生になって、サッカー部に入って毎日毎日部活で部活で土日はほとんど試合で試合で、祖母の家に行くことは年に三回くらいになりましたが、悪い花は年々、見れば見るほど大きく大きくなっていったのです。
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
僕は高校生になった春に、ひとりで、電車で、祖母の家に遊びに行って、その花の、やや青い花びらを数えてみたら、数え切れなくて、しかも突風が吹いて、大きな大きな悪い悪い花は、その優しい優しい香りを街へばらまいたのです。
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
それは祖母が死んでからも咲き続けている。それに比べ僕は、今でもたったひとつの花さえ咲かせることができないのです。
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
いつか僕にも詩を書く日がきたら、僕には僕のやり方で、毎日毎日水をやって、それを最初の一行にして、僕の花を咲かせてやるのです。
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
僕が死んだら、祖母の家の、この庭に、僕を埋めてほしい。そう願うのです。あなたなら、きっと、花びらを数えられる。いつか、花束にして、あなたの好きな人に届けてください。
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祖母の家には大きな大きな悪い悪い花が咲いてあって、
100年以上前から毎日毎日その上を透明な電車が走っている。花は潰れることも枯れることもなく咲き続けている。その窓から見える景色が僕にはわからない。けれども、その窓に射し込む光が、最後の最後の一行になればいいと思うのです。もちろん、あなたの。
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選出作品
作品 - 20160217_711_8631p
- [優] 大きな大きな悪い悪い花 - 泥棒 (2016-02)
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大きな大きな悪い悪い花
泥棒