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作品 - 20160211_642_8622p

  • [優]  #10 - 田中恭平  (2016-02)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


#10

  田中恭平



天井は軋み 脚はしろく弱々しく
その脚を拭う間も 天上は軋み
天井は軋み 初不動の日 花はふるえ
日は削ってしまおうと大工 天井は軋み



世に夜が詰まり朝を締めあげている
裸木は巻き込まれている 水を与えてやる
眠気も抜けきっていないのに 丁寧虹のある
デスクの中を確認する 湿度計を確認する



午前四時というと やぶれ長屋に闇が漏り
眼をひらく者 闇に眼をやられ
呼吸をのぞむなら 星の発光
その連続 連続を孕みつつ午前四時は過ぐ



目覚めは 男は男であると信じさせ
目覚めは 女は女であると信じさせ
ベッドからおりたら 生き方は選べるのに
似合っていない服を着るとこころが軋んでしまいます



夢を脳へ押しこむ強さで 何か殺めたい
時間が時刻を譲らない力で 何かを殺めてみてもいい
そして神へ捧げたい 神が喜ぶところ平然と立っていたい
本当はこの貴重な一日きっかり 無駄に捨ててしまってもいい



日に命を吹きこんで 立たせてやれば駄目な日で
こんなにグラグラしては あんなにグラグラしたままだ
日はいつか寝小便しやがって 懐かしさの摩擦に燃える
そんなにグラグラしていれば きみの歯のことだよ



言葉より退いて預けて 野へと出た
花の女神今日ない と教えて貰う
風は冷たい 火は冷えびえと
案山子が燃やされている



言葉は永遠遺るもの
言葉は永遠へかえるもの
言葉はとにかく強いもの 鉈を洗って鉈ひかる
言葉はよわよわしさで沸騰するのに



鉢の金魚は沈んでおり 鉢の表面は凍っている
氷は氷らしく黙すばかりだ
花が咲き この言葉不要のさいわいの季節
どうしてペンを握って感じている



これはバナナではない そう呼ばれているだけだ
私は私ではない そうのぞんでいるだけだ
頭の中の茸は 畢竟フランスの国旗であるが
さっきのぞきみた茸 そう記述したいだけだ



もっと食べるにしてもものがなく
ものがなしく 仕方なく空気をいただく
枯渇しつつ 命の循環の中で
打てば響く 触れれば湿るこの地は何か



安定剤で背骨を焼いて ふつつかですか煙を吐いている
会話の芽は開いて 花々が閉じていく
あっけらかんの空で正しくゴミは分別されている
否 何も確認しなかった だいたい眼球のオイルは切れた



パンの耳が聞いている朝
昨日の終わりの一片の感光 その響きを
期待して この小さい影は立っていたか
ああ 確かに少年で 見ろ 握りこぶししている



よしなにしなさいは反復され
反復された分の喧嘩はよしなにした
熱い風はもう吹かないが ミサイルが飛び
しかし眺め入る空に雲一つなし



血は胃袋へ向かい考えられない
善意を御金で示してしまった
まだ眠かった 電話を待っていたのに
電話が夢の中へ流れ落ちていってしまった



唯一の枝は折れそうに 枝に葉はない
向こうから前髪まで風が吹いてくる
くさはらを旅人のように眺めつつ 畢竟旅ではなく
鳥のようには歌えない 鳥のように他の地を知らない



春をのぞんで児をなでる
花郎がとべば露となり
凶所を知り尽くしつつ もう運は関係はないと
もうまぼろしの蛇と遊ぶ 歌を書き下した



火の不知は知っている 火は少しぬけている
雨で舌は洗えない 雨が洗うのは路傍である
画家は瞬間の反応に 時間を経ているのか
彼らに私のフラジャリティを嘲る資格をやる



星は日がまぶされて消えたこと 実際
その時をしっかり見ていなかったことは省略しつつ
星は日にまぶされて消えたこと 実際
遺ったものは 言の葉の香り



日は絶えて 冬の昼は涼しくなった
益々寒いといえるほど
百に一つのさいわいは蜂蜜の飴玉
もっていると知れても知られなくても構わない



ゆるりの音は暖簾をあげて
油に水の われわれは天ぷら蕎麦にサイダーをいただく
預言も未来ももう要らない
油と水の 共通項はそういうことだった



赦されつづければ生きていけるのかと はた
それは赦されないことと同等であった
月がきれいですね 月がきれいですね
青空の下 地蔵菩薩を雑巾で拭いつつ


 

文学極道

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