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作品 - 20160208_563_8608p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


お肉のポエム

  

わたしがあなたであることを証明しましょう
あなたが目をひらけているときはあなたです
さぁ、次ぎは目をとじてごらんなさい
あなたにとってのわたしが脳裏から歩み出て
あなたの目のまえを支配してゆくのがわかるでしょう

宇宙に空間を歪めてしまった
ゴミだしするのを忘れた日

小さな物語のなかは
些細なことで
一瞬に広がる泉
魚が8の字を描く
広大な海に
一人の若者が
荒れ狂う夜に向かって
漕ぎ出した母の話
静かな言葉だった
本を閉じたあと
いつかあなたの少女も
若者の話をきくでしょう

ああ、ところで人間
そう、おまえだ、そこの人間よ
おまえはどこから来て、どこへ行くのだ
そしておまえは今、どこにいるのだ
結局、私の悲しみも誰かの胸の裡
海の藻屑と消えるわけだ
それは私がそうであるように

悲しみを望むような馬鹿ではないけれど
あいつの死は忘れられないほど美味かった
あいつが死んだおかげで、俺は今もここに立っている
あいつの屍が、俺の足首をガッチリと掴まえている
他人の悲しみより美味いものはない
だから俺が死んだときは大笑いしてくれよ
あのバチ当たりもんが、ようやく腹を満たしたかと
恥ずかしいくらい、喰らいやがったと

繰り返される人生の、スクランブル交差点
鳴り止まぬ轟音、耳鳴りのような空をめがけ
芥子粒は真っ只中で立ち止まり
人目を憚らず立ち止まり
力いっぱい腕を突き上げる
その手のむこう、摂氏0℃の指先に
静寂は真空に集まる

放り出されてしまった
街は人々に幻想と問い掛ける
-ゴウゴウ-
耳鳴りだけが風を切る
わたしと暮れ急ぐ空だけが
見えない糸で繋がれた現実
夕焼け色にオレンジの薫りがした
あの人は来なかった

俺はあやまらないから
あなたもあやまらなくていいよ
黙ったまま、心の牢獄で
背負い続ければいい
ガラクタが散乱する
鍵がかかったままの
閉じられたままの鉛の箱を
女はひらけてはいけない

くびすじにキスをするとき
髪から他の男の臭いがしたので
僕はおもむろに君を殴りつけた
すると君は泣きながら、その匂いは
わたしたちが今、こうしてここに在る理由だと
言って空を指差した
何の変哲もない景色が四角く切り取られ
君はその中に何人も居た
僕は一番幼い君を抱き上げて
やさしく頬にキスをした

ばちゃばちゃばちゃばちゃ ばちゃばちゃばちゃばちゃ
ばちゃばちゃばちゃばちゃ きゃりーぱみゅぱみゅ

みずたまり、この水溜りに
思い出が降っている
雨の如く、波打ち際を
いったりきたり

星から星へ
象が玉乗りしている

世界は多分、他者との総和
しかし、互いに欠如を満していると
誰も知りもせず、誰にも知らされもせず
ばら撒かれている者同士、無関心でいられる間柄 
うとましく思うことさへ、許されている間柄
そのように世界が緩やかに、構成されているのはなぜですか?
花が咲いているすぐ近くまで
私の風だったのかもしれない

目にも見えない
耳にも聞こえない
ふと美しいときにだけ
思うことを許された
そんな大きなもの
海に形はありますか?
寄せては引いて
ただそれだけで

老いは裏切らない
空は変化し、命は移り変わる
けれども老いは、俺を裏切らない
人の話に耳などかさぬ
うねうねと迷走する未来へ
黙って一本道を叩きつける
桜の散る春
枯葉舞う秋
奴の背中が
大きく聳え立っている

心は道化師、移り変わる
いったい僕はなにをもって
君に話をしているのだろう
寝ても起きてもいないとき
無心は突然やってきて
ふと僕を黙らせる

地底の薄ら笑み
深々とその浸水
破れた長靴の先に
空の内耳が立ち込める
萎れてしまった午後に
二重の太陽が凍りついている
魂の延命に、白いテーブルが
仮初とあざ笑う
運ばれた肉片の
卑しき爪あとが腹を裂く
午後の雨は鈍い銀の刃

古ぼけた納屋を横切ると
田んぼが、山肌からせり出している
小川のせせらぎの脇にラーメン屋はあった
落ちぶれた人間が
麺の先を辿るように集まるこの店を
人は夜鳴きと呼んだ
暮れ急ぐ竹林に
店主はポロポロ暖簾をだす
罠に捕られたイノブタが
ちぎれそうな足をなげだし命乞い
「わたしの足をスープにしてください!」 
店主言う
「足をひき千切りたまえ。」 
猪は、「ありがとう!ありがとう!」 
涙を流し、その木の根っこのような顔で
鳴り止まぬ横笛の音

愛かどうかは解らない
たんなるひらめきに違いない

ひらけてのひら春のよに
いみもないよな言葉たち
咲かせた花のものがたり
じべたの下で血のような
ぬくもりだけが感覚だ

ならならと、時間の底に横たわる、鉄兜がグシャリ窓から転げ落ち
行く手を見失った戦争の輪郭が、麦の穂にピラピラはためいている
錆びた泉に涌きでる、幾千の爪色の身体を、地に透かした死者の顔が笑う 
うなうなうなうなうなうな
うなうなうな殺してくれ〜
眠りを忘れた老い猫の呻き声が廃屋の枯草を潰す
ジリジリと、足跡が焦げつき
電信棒は腰くだけ、返信さえへもままらない
封筒をナイフで裂くと、幽霊の片腕が落ちる
右目を押さえ、耳から鼻へ紐を通す着信音
魔王は古の橋を、過去から未来へ転倒する
カエルの腸管に息を吹き込めば
引き裂かれた国旗に中吊りの人間にぶらさがっている
石畳に壁に瓦礫と倒れ
圧迫された消灯は軍服の隙間から蛆がひちゃひにちゃと青肉を吸う
淋しい歩道に太陽は照り荒み、ミミズが乾いたまま寝むっている
この細い旋律が雨に流されてしまう前に、魔王よ、いまこそ鳴り響く鐘の音を聞け
テロオオオオオオオン!!
しああああああああん!!

斜めに引き裂かれた断面が降り注ぐ
寂しい婦人、 傘もささずにトタン屋根
錘のような子を抱いて、セピアの海に釣糸を垂れ
おお、雨だ!雨だ!!雨雨雨雨だ!!
窓ガラスに雨が張りついた裸体を舐めまわしたように
新緑の輪郭だけを残し、思い出は甦る
さぁ来い、馬に乗った鼓動が大地に響けば
指のあいだの温度を保て!

モダン色したキリンの群れが
煉瓦造りの街を徘徊する
3階建ての窓から朱色の風船が飛んでゆき
お嬢さんはどこですか?
兵隊の列が、ねずみをかきわけ
破裂した女の腹から闇へギコギコと
鼻から口へ黒い血が垂れ流し
この臓物は馬小屋の味がする

青い海、暮れかかった海のうえに鍵盤が波打ち、どす黒い海だ
人の話し声や、行き交う車の地響きや、おまえのうめき声
混ぜこぜになった風に滑空しているカモメだ
いったいどこの誰が、この止まぬメロディを肴に酒を呷っている
どうしてカモメ、おまえは血と汗と宿命を知り得るか
おまえの翼が、おまえの笑い声が、時間を海に変えてしまった
足跡を浚う、繰り返す波の音!
さりげない明日の予感が呑まれてゆく
おお、首をかしげる海亀のように、人生どもが幻聴に浮かんでいる

あたい、魂売った銅貨一枚
季節外れの砂浜だよ
からっぽで、肌は黒い
誰も居なくて、澄んだ空
とっても静かだったよ

電線に打たれた空気が口を歪め
そしらぬ態度は、ビクンと時間を凍り漬け
鼓動は足並みを揃え、頭を抱えて走り出す
輪郭がまるで知恵の輪のようにゴロゴロと回転している

蜘蛛の糸をひく玄関を押せば
薄ら笑みを浮かべた男が寝ている
ねぇ、お客さん、お客さん
わたしの顔をまたいでおくれ
記憶の裏に、深く沈めた腫れ物をしっかりと拝んで
あんたがどこからきたのか、股間をまさぐりながら
思い出しておくれ、ヘソに店主の顔が浮かびあがる
ここはおばけ屋敷だ

道の欠片に根を張った
薄葉の花と蜻蛉は
なべて昨日の大地に積もり
針のような今を落とす
遠ざかる祭りの囃子が雫を垂れる
笛の音は一丁離れた
先の予感でちょうどよい

空っ風が寝静る街路を、知らないあいだに駈けてくる
テンテンと、幼児のように跳ねてくる
詩人が歩いたその後は、名の無い草が生えている
恥ずかしそうな眼差しで、誰もいなくなった空き地の縁で
地面に耳を押し当てて、目隠ししてるの誰ですか?
あなたはこの世から解雇されました

文学極道

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