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作品 - 20160205_520_8604p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


立ち止まる三つの詩

  

〈屋根から落ちる雪〉

降る雪が、まつ毛の上に留まるも
溶けて消えるのにまかせ
降る雪が、白い蛾のように視界を閉ざすも
ただ前を見て
降る雪が、濡れたアスファルトに消えるのを
思い描いた
爪先はしんしんと冷え
足音もくぐもってゆくのに
気づかないふりをして
歩かなくてもすむ道程を歩いた昨晩
冷えきった身体を横たえた屋根にやはり
雪は、音もなく降り続いていたのか
枕元に置いた携帯電話が畳に滑り落ちた
屋根に積もった雪が落ちる音に似ていた
淡い予感に身を起こし、拾う
雪崩れたのは、私だった



〈雨をしのぐ〉

朝、傘を持って出なかったから
夕方、シャッターの降りた軒下で
雨と、傘をさす人々を遣り過ごす
大きなしずくが ぽたり
ゆっくり と
落ちてきて
水没する
ああ
もういやだ
うずくまって
泣いても
どうにも
逃れられない
暗い
思いにとらわれる
ごめん
ごめんなさいと
もう、許してと
崩れてしまいたくなる
けれど
小雨になったから
傘のあいだを足早に
歩きはじめたら
ひゅ と
背中を射られて
やぁ
さほど痛くない。
背中に突き立った矢羽に
傘の下から
人が息を呑んで振り返るから
手を伸ばして
乱暴に抜く
へぇ
ボーガンってやつ
血がシャツの背中を濡らすから
尚更目立つみたいで
苦笑

朝、
雲行きが怪しいから
傘を持って出る
そんなこと



〈芝生〉

隣の芝生が青く見えるというよりは
自分の芝生に石ころや雑草が目立ち
ところどころ枯れて剥げているのが
ありありとわかるけれども、それは
この場に立って見ている故の必然で
霧吹くようなじめじめとした雨の中
山を登る君が山頂にかかる白雲の中
にいるがごとくなのだと慰められて
納得したような顔して笑ってみせた
けれども荒れ果てているのが真実で
石を拾い雑草を引き抜き植え付けて
肥料と水を適度に与えればよかった
というのに怠ってきた結果だと知り
これから手をかけ世話をしたならば
この芝生も初夏には幾らかは美しく
生き返ると充分わかっているけれど
私はそれをしないのであり代わりに
生え揃う芝生のような詩を書くのだ

文学極道

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