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作品 - 20160121_305_8576p

  • [佳]  (無題) - 牧野クズハ  (2016-01)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


(無題)

  牧野クズハ

君が裏返しにした愛の
中を覗いて見たら
ピンク色の襞に覆われ
ジェル状の粘液が
そこら中から迸り出ていた
私は一旦愛を元に戻した

君が見せてくれた裏返された愛に
私は戸惑いを隠せなかった
君は言った
一緒にこの愛の中で暮らしていこうと
私は躊躇いながらも
首を縦に振った

愛の口をめくり上げて
私たち二人は愛の中へ飛び込んだ
愛の口が閉じられて
真っ暗闇の中
饐えた臭いのする
胃酸のような分泌液が
襞中から溢れ出てきた
私たちは分泌液を浴びながら
どろどろした愛の中で
口づけを交わし 抱き合った

愛液がじわりじわりと
まず君の両足を溶かした
そして私の脇腹 左足
愛が分泌する消化液は
私たちの細胞を分解していく
不思議なことに痛みはなかった
最後に目だけが残った時
君の身体はばらばらに崩れ去っていた
私たちは肉塊と骨と血液の澱となり
愛液の海の中で浮き沈みしていた

身体を失ったはずなのに
心はとても澄んでいて
心に溜まっていた
憎悪や厭世観
虚無感や絶望は
一つの純粋さに昇華された
そこにはちゃんと君もいた
私と君は一つの純粋な意識となり
言葉など交わさなくとも
私たちが一つの言葉となり
それが表す意味となった

今までになすりつけられた
呪われた汚辱を
削ぎ落とされ 浄化され
私たちは一つの愛となって
誰かが私たちの口をめくり上げて
抱き合って入ってくるのを
待ちながら暮らしていくんだ

文学極道

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