古い空き家で
鉄錆びた
ぜんまいの音のする
陸亀を模した柱時計を見ていた
ぼくはそこで
海辺にせり出したデッキに
籐椅子に座って
編み物をする
老婆の姿を想像してみる
白く突き刺さった
漆喰の陰に
記憶の分裂した時間が写し出す
空にも溢れ出していくように
彼女もそこに居た
こうして地上の滅んだあとに
ぼくの愛した恋人は
いったい何者だったのかと問う
ぼくを騙そうとしていた
彼女の眼と
もう少し眺めていたい世界の
景色とが重なる
人間はもう
化け物になっちまったよと
彼女に言う
変なことを言う人ねと
少し眉をひそめ
悲しそうにつぶやく彼女の感情が
ぼくを支える
唯一のものとなる
彼女の悲しみを通して
ぼくはいま世界と繋がっている
きっとそれは無限よりもまだ遥かに大きい
果てなき大きさだろう
ぼくもきっと群衆の中の孤独の一つだ
死にゆく命に憤ったりはしない
裏町にある恋に
花と咲き
実と狂う
そんな野草の習性に
ただ身を寄せている
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選出作品
作品 - 20160116_241_8569p
- [優] 空き家 - オダカズヒコ (2016-01)
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空き家
オダカズヒコ