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作品 - 20160108_119_8550p

  • [優]  農夫 - オダカズヒコ  (2016-01)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


農夫

  オダカズヒコ




春になって
おれは新しいゴム長靴を買った
大原の奥の苑で
鍬とスコップとトラクターとを操り
内部に犬の見える
ガラス製の畑に
鍬をくい込ませ

おれはその上にまたがり
力いっぱい
お前を抱きしめるのだ

女よ
おれは貧しさを求めている
海のように孤独で懐かしいものをだ
女よ
おれはお前を抱いているが違う

病んでいる犬に
新しい胴体を与え
鳴かせているのだ
ヴーとかハーとか
獣の痛恨を語らせているのだ
わかるか
女よ

春には種をまく
土は執着のものだ
踏みにじれ激しく
故郷の言葉で
研げる復讐の言葉で空虚感から叫べ
自我という鈍器で
鳴らせない音はないのだ

ロボットが喪失してしまったものはモラルではない
さめざめと泣く女
お前だ
お前の顔の
レリーフのような窪みだ
わかるか女よ

おれは意識によって構成された
悲しい物体を
いま肉体と呼ぶ
道頓堀の橋の上から
細胞が永久の無となる一瞬を死と呼んだりはしない
男の黒いコートの下に隠れている虚ろを信じてみたいのだ

春を
秒針で時間を狂わせる化け物のように見て
コンクリートを
今できたばかりの文明の発明品のように愛で
茶店で紅茶に砂糖を溶かせていくおれの指先は
さっきまで
激しくお前を抱いていたおれの
虚無はどこにもない

ただあるのは

無頼で監獄を破り
有刺鉄線の
非常線の向こう側へ渡った
冒涜を知ったばかりの
お前だ

文学極道

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