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作品 - 20151225_910_8520p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


クリスマス考現学

  オダカズヒコ




俺たちの血の中には
繁殖へと促す
優れて工学的な力がある
そいつがジョルジュ・ルフェーブルによると
「春の向性」というわけだ

黒死病では
膨大な喪失を埋め合わせる必要性の歴史と
不可能が境界をぶち破っていく文明とが
同時に現れる
魚の本能は
それこそ何万年もの間
変わらずそこに生存し続け
人間の脊髄として残っているのだ

街角で
俺は古い習慣を眺めていた
キリストの生誕を祝うイリュミネーションや
人々が認め合っている
参加の印
サンタクロースの帽子や
トナカイの赤い鼻
クラッカーや赤い靴や
そのどれもが
説明は不要だと言っていた
あの形態が機能を従わせる
催事の力が示されているのだ

コンピュータには100億のトランジスタがある
それぞれのトランジスタは
10億の信号を送ることができる
2014年5月25日(日)晴れ
俺は自室にいて
人間の視力が今のような世界を見るに至った動機と目的について考えていた
人間は表面的には生きているが
裏側に回れば必ず構造がある
涙はいったいどこからくるんだろう?
きっとそれは弱虫が踏んだペダルのせいで
海から川を巡って運ばれてきた水だろう

種に寿命があるとすれば
聖書学的にapocalypsisと呼ばれるものにも頷ける
世界をリセットする物語の向こう側にいまや俺たちは居るのだ
ノアの箱舟の話はユダヤ教やイスラム教にもある
一番古いのはシュメール神話のジウスドラの話だ
そいつは楔形文字で粘土板に刻まれていたものだ
俺は大阪駅構内の自販機でコーヒーを買った
微糖とアルミ缶に印字されている
自然の資源価値は時代とともに変わるが
俺たちの精神に内在する微糖とは
かつて楔形文字で粘土板に刻まれていたものと同じだ

脳という脳を想像力に浸す
大阪環状線の列車は陸に上がった魚だ
前足がなく
鰓呼吸をし
そのフォルムは一億年前のままであり
鱗がヤスリのかかった鋼鉄に変わった他は陳腐化している
水面に浮きあがる必要ななく
レールの上にただ体を横たえるのみ
Merry Xmas

目が光を見た時のことを覚えている
世界は人間の内側に闇のように広がっていて
瘡蓋によって閉じられた容器のようなものだった朝
俺はバスタブの中で飼っているクジラに餌を与えている
クジラはバスタブの中に潜水し
ふっと息をあげた
深い海の中へ戻りたいのかい?
そう尋ねると彼はストレンジャーらしく尾っぽ振った
まるで地球がまるごと工場になってしまったようだ
休日にバルコニーで
俺は煙草をふかしながら町を眺めた
町ゆく人々の頭上には傘があった
雨が降っていたからだ
車と列車が交差する
田んぼの中にポツンと建つコンビニ
人々は狂ってしまわないように制服を着るのだと思った
制服の中に体を閉じ込めることを
安全というのだと

文学極道

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