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作品 - 20151208_504_8488p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


続【点子が、行く。】

  点子

点子には たくさんの御主人さまがいるのです
猫なんて 皆そんなものですわ
ある日、点子と点呼されたときから、わたくし 点子となったのでございます。
ほっておくと 保険所に連れて行かれるというので、
ピンク色の鈴を わたくしに つけてくれた人は、
わたくしを点子と呼んでくれるのでございます。

あれは 明治の世の時代でしたでしょうか。
わたくしの主人のひとりなんぞは、高襟(ハイカラ)をつけて髭ひげを生はやし
わたくしをモデルに小説【吾輩は猫であるなんてものをお書きになったのですが
わたくしのことは ただ「ねこ」「ねこ」と お呼びでした。

ただ「ねこ」と呼ばれるよか
点子のほうが よぼどポイントが高いとおもいますわ
わたくしの名は やはり点子なのでございます。わたくしがわたくしの名を
心で唱えるたびに わたくしはチャームポイントのかたまりなのでございますの
お礼に わたしにピンクの鈴をつけたくれた人のことを、
わたくしは 桃色鈴の君と 呼んでおりますの。

桃色鈴(ももいろすず)の君が 指先から わたくしが落としたのは、
月曜日のことでした。その日は ビルの六階を上回るような大型船が
この町に着岸した日でした。
ベンチにすわっておりましたら 桃色鈴の君の目の前を
少年が横切ったのでございます。

少年は ほぼ坊主頭なのですが、円形に髪がのこしてあり
髪で【酷】と 描かれているのでございます。
どうみても【酷】の字なのです。酷の字に酷似なだけのでしょうか
少年は 両親に手をひかれて 嬉しそうなのです。
彼は親に愛されているのかどうかが 気になり
桃色鈴の君も わたくしも 少年の両親の貌を 
それとなくのぞきみるのです
この町で 少年に出会うひと 出会うひとのすべてが
少年の頭に 釘づけなのでございます。

わたくしは点子でございます。
あたまに【酷】の字が刻印された少年は いわば酷子なのでありましょうや
どうも疑問に思ったものですから 中国がえりの猫に聞いてみましたの
すると、【酷】は 
英語の「cool」 は「酷」 と書き、大好きという意味 
超イカスという意味だそうで 

少年はとても愛されているらしい。そりあよかったよかった。
わたしが 旅をするしても 桃色の鈴を捨てられないです
野良の猫が、 相当 笑うんですけれど  ね

文学極道

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