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点子

選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

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点子が、行く。

  点子

点子にも ほんとうの名前があるらしいです。
しかし
点子と点呼されたときから、わたくし 点子となったのでございます。

汽車ほど、人間の個性を軽蔑したものなどありません。
この明治の世では 人々は汽車に たいそうおどろいているのでございます。
喜んだ者もいましたが、そうでない者もおりました。
わたくし点子の主人などは ひねくれておりますので
髭を くいと 丸くカールさせたまま 口を への字に歪ませて
このようなことを 云うのでございます。

   客車につみこまれた人間が
   皆同じ程度の速度で 同一の方向に進み
   同一の駅に向かう 
   人間は物なんぞじゃあないというのに
   同じ方向に 同じ堕落を 同じように
   自分など どこかに忘れて進む 

それが悲しいのでしょう  先生の猫である わたくしの名は 点子です。
   猫に名前は無くてよい。だか 点子よ、おまえには 
   チャームポイントがある。どこが可愛いかなんて云わんぞ
   おまえは チャームな点がある。だから点子だ。


汽車は チャームな わたくしを乗せて 蒸気をあげて走りました。
花火あがり 風船とび 大漁旗はひるがえり
そろいの衣装でおどる女たち
こどもたちのみこしも はしゃぎます。
   人には同じ行き先が嬉しいのです       
   瀬戸内に寂しく静かな尊い教えがあるのだ。
   その教えは、誰もが自分が可愛いが、
   それで良いのかと説くのだそうです。   
   汽車は 尼様の方角に向けて走るために開通
   したのでございます。 
  
   わたくしには チャームポイントがあるのだと
   先生はいつもおっしゃっているから 
   御坊様だろうが、汽車だろうが ロバだろうが 
       どうでも良いことなのでございます。
       
   チャームな点が、もしかして その女の御坊様にあって 
   私にないので わたしを捨てるというなら
   わたくしは 野良となるだけのことなのです。

そして  時代を経て、わたくし野良となりました

が、
わたくしの名は やはり点子なのでございます。わたくしがわたくしの名を
心で唱えるたびに わたくしはチャームポイントのかたまりなのでございます。


続【点子が、行く。】

  点子

点子には たくさんの御主人さまがいるのです
猫なんて 皆そんなものですわ
ある日、点子と点呼されたときから、わたくし 点子となったのでございます。
ほっておくと 保険所に連れて行かれるというので、
ピンク色の鈴を わたくしに つけてくれた人は、
わたくしを点子と呼んでくれるのでございます。

あれは 明治の世の時代でしたでしょうか。
わたくしの主人のひとりなんぞは、高襟(ハイカラ)をつけて髭ひげを生はやし
わたくしをモデルに小説【吾輩は猫であるなんてものをお書きになったのですが
わたくしのことは ただ「ねこ」「ねこ」と お呼びでした。

ただ「ねこ」と呼ばれるよか
点子のほうが よぼどポイントが高いとおもいますわ
わたくしの名は やはり点子なのでございます。わたくしがわたくしの名を
心で唱えるたびに わたくしはチャームポイントのかたまりなのでございますの
お礼に わたしにピンクの鈴をつけたくれた人のことを、
わたくしは 桃色鈴の君と 呼んでおりますの。

桃色鈴(ももいろすず)の君が 指先から わたくしが落としたのは、
月曜日のことでした。その日は ビルの六階を上回るような大型船が
この町に着岸した日でした。
ベンチにすわっておりましたら 桃色鈴の君の目の前を
少年が横切ったのでございます。

少年は ほぼ坊主頭なのですが、円形に髪がのこしてあり
髪で【酷】と 描かれているのでございます。
どうみても【酷】の字なのです。酷の字に酷似なだけのでしょうか
少年は 両親に手をひかれて 嬉しそうなのです。
彼は親に愛されているのかどうかが 気になり
桃色鈴の君も わたくしも 少年の両親の貌を 
それとなくのぞきみるのです
この町で 少年に出会うひと 出会うひとのすべてが
少年の頭に 釘づけなのでございます。

わたくしは点子でございます。
あたまに【酷】の字が刻印された少年は いわば酷子なのでありましょうや
どうも疑問に思ったものですから 中国がえりの猫に聞いてみましたの
すると、【酷】は 
英語の「cool」 は「酷」 と書き、大好きという意味 
超イカスという意味だそうで 

少年はとても愛されているらしい。そりあよかったよかった。
わたしが 旅をするしても 桃色の鈴を捨てられないです
野良の猫が、 相当 笑うんですけれど  ね

文学極道

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