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作品 - 20151207_472_8483p

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皆殺しの比喩

  赤青黄





しんでください
いいからしんでください
だからしんでください。
言わないでください。
何もいわないでください。
なにも伝えないでください。
いいから黙ってください。
つまらないのでしんでください。
まもなくしんでください。
どうでもいいので死んでください。
話しかけないでください。
こっちこないで、
黙って、
そして死んでください。

やめてください。
いい加減にしてください。


しんでください

しんでください

しんでください




 見知らぬ誰かの、長い髪の毛が一本、風呂上りの濡れたタオルに忍んでいた、女だろうか男だろうか。多分女だ。しかしそれは女であるか?女だ、いやしかし、だれだ?これは誰であるか。それはだれであるか?しかしここにはいない。どこにもいない。これは不在である。あたり前の話だ。人の気配はどこにもなく、つまり不在だ。それでしかない。隠してなどない。どこにもない。ひとつ、ひとつ数えながら、女の顔が、切り裂さかれている、これがどうしてなのか、きみに分かるだろうか。そうだ、思い出したぞ、集合写真だ、あの日、あの場所で撮った集合写真だ。これは誰だ。ここはどこだろう。そうだ、ここにいるのは誰だ。女は、女はどこにいる。答えろ。答えなさい。女はどこだ、どこにいる。部屋の中に女の姿はなく、いやある、いやない、いやある、というか、そもそも女が存在する筈がなかった。分からない。そうだ分からない。分からないのか?いや、わからないんだ。しかし困った。そこには、紛れもない女の髪の毛が存在する。訳とはなにか?言い訳とはなんだ?それをする理由がない、隠す理由がないんだ。分からない。分からないから分からない。しかし、それはどうでもいいことだった


オレは、女の髪を口に含んだ






これはゆめであろうか。


 女がオレの手足を鋸で切っていくのを黙ってみている。これは夢だ。つまらない夢の続きだ。と、オレは部屋をでる。鍵はなくしたままだ、オレは階段を下りる。しかし、どこにいても腹は減るものだ。オレは肉を食べた。誰の肉であるか?わからない、しかし、これは血だ。鼠の血だ。灰色の血である。送金が減らされることになった。壁に強く当たった。嘘だ。稼いだ金が、てめぇのオナニーに溶けていくなんざ悲しい。やめてくれ、どうかやめてくれ。おねがいだから死んで下さい。どうか可及的速やかにしんでください。例えば、オマエやオマエなんかは育てなきゃ良かった。例えば、お前に餌を与えなければよかった。例えば、お前を育てる代わりに別の子を育てりゃよかったんだ。仕方ねぇだろ!オレにどうしろっていうんだよ!そんな話を!週に一度!日曜日の夜に、の電話を、切断することができない、オレは再びかけなければいけない。やめてくれ、今にも死んでしまいそうだ。そうだ、髪を食べよう。これの伸びた髪はてめぇの髪の毛だ。女ではない。そこに電話線はない。他に何があるか。お前の顔だ。お前の顔が映っていた。オレはパソコンを開く。昨日、何処かで誰かが死んだ。話を誰かが噂になって流していた。誰が死んだ?誰が死んだんだ。あれは酷い有様だった。いや、そうじゃなくて。皆殺しだ。立て篭った人間が人間ごと吹き飛びやがったんだ。んな話あるかよ、つーか冗談だろ?いやマジなんだって。っていう動画はつまり動画だった。つまり嘘だ。端的に言えばウソだった。そうか、嘘なんだ。ウソだったんだ!例えば、誰かが捕まった話をしよう。例えば昨日、ダチの父親が死んだ夢を見よう。例えば、オレが葬式に行かなかった話や、例えば、服用した薬が、違法だったことについて話そう。想像しよう。さぁ、イメージを膨らませて。想像するんだ。例えば、世界中のなにがしの、それがしの、だれがしの、何がしが、誰がしによって、例えられた比喩によって、ここに一万本の比喩が咲くんです。どうですか。すばらしいでしょう。とても素晴らしいと思います。確かに素晴らしいですね。みんなつながるんだ。一つのわっかになる。キミとボクは繋がる。あるいは、ゲームがアップデートされた時の話をしよう。懐かしいな。うその話をしよう。物語を、子供に聴かせるとき、例えば、そこで死んだ話をしよう。射精の話をしよう。一億人の精子が三度の性行為で死んでいく話を。おれがついに果てて、深い深い、曼荼羅の果て、つまり宇宙の果てにおいて、黄ばんだブリーフの底の中で、ゆりかごにそっと揺られながら、曼荼羅のなかで、再び射精する話をしよう。そこでお前が生まれた話をしよう。嘘の話をしよう。繰り返し繰り返す嘘の話をしよう。しかし、そこで終わらない話をしようと。どうする?いや、どうしようもないが、俺は童貞だ。オレは童貞である。そういうのが、一緒にくべられている炎の話をしよう。その世界が、すぐ側で固まっている話をしよう。というのがうそだっていう話をしたら?きみはしかし、その使い方は間違ってる!その使い方をオレの方が知っている。というのはほんと?いいや、うそだね。という嘘の中で、マラをこすっているのもうそだ、というつまらない夢を、よりもっと、正しく、正確な形でお包いたしましょう!



 夜。場末のバーで、中年男が尻を振っている側で、童貞がカクテルを飲んでいると、となりに黒ずくめの格好をした男が座った。男は適当な酒を注文すると、それをぐびぐびと飲み始めた。童貞は隣の男にタバコを差し出してみようと思った。童貞がバーにきたのは、これが初めてだった。というかそもそも、ここが場末であるかどうかなんて、童貞はまるでわかっていなかった。場末の意味なんざ知らなかった。だからといって意味を調べる気は毛頭なかった。そして黒づくめの男の正体は死神だった。死神は今日初めてセックスをしたのだという




 この話をするたびに君は死ぬ。もう一度殺され、そして何度も殺害されるだろう、そして何度も殴られるだろう、そしていずれ撲殺されるだろう、終わらないからおわらないのである。ゆえにリフレイン、リフレインと名付けられた、ある人がぼくに向かって言いました。大事なことっていうのは簡単に結論付けてはいけません。と誰かがいいました。尊敬できる人の言葉っていうのはよく覚えているもんだね。うそ、んなこたないよ。ある種のキチガイがそこにいました。僕は生まれて初めてギターを握った。初めてピアノを弾きました。鍵盤を叩きました。大声を出しました。それがはじめての歌でした。ぼくはそれに感動して鉛筆を握りました。すると何もかけませんでした。黒い●を書きました。デタラメなスケッチをしました。デタラメな丸をいくつか書いてみました。それは顔になりました。でも、それが、何になったかい?って聞かれたら、じゃぁオマエはどこに立ってるんだって、答えられるのかい?と言って答えられるのかい?って、じゃぁそしたらオマエは答えられるのかい?ってHey!!Hey!!Hey!!Fuck!!Fuck!!Fuck!!って壁に腕付いて、影絵の中で腰を振る。そうやって叫ぶ俺の舌は太すぎて、綺麗なRが巻けないんだ




「もっとかきなさい
「マスを掻くんだ
「掻き毟らないと
「包茎を長い年月をかけ剥いていくように
「花びらを一枚一枚めくるように
「もういちど比喩を書きなさい
「それを詩文によってしたためなさい
「手紙をかきましょう
「誰かに向けてかくのです
「誰にだっていいのです
「あなたは、かかなければなりません




 ぼくが選んだ比喩は三番目の比喩だ。箱に敷き詰められた、だれかが、どこかで書いた文章を一つ、一つ、綺麗で透明な、それこそガラス張りのショーケースに飾った小さな町の本屋のおじさんがぼくに、比喩をプレゼントしてくれるっていうんだ。しかしそれが、どんな比喩がいいのか、おじさんに尋ねられても、ぼくにはどれも同じに見えて、何も答えることができなかった。おじさんの顔には髭が生えていた。何本も皺が刻まれていた。唇には太くて真っ赤な口紅が何本も縫い付けられていた。おじさんは話すことができなかった。それでも、これがわたしの選んだ比喩だから受け入れましょうって。そうだ、そうなんだ。僕たちは選んだ比喩を持ち歩くことができるという。まるで、なにかのゲームみたいに。でも、何かのゲームみたいに、比喩とお別れすることはできないんだ。そのことを忘れてはいけない。わかった、おじさん。ぼくは三番目の比喩を身につけた。まるで、のろいのひゆみたいに




死んでください。
いいから死んでください。
やめてください。
言い訳はいりません。
ききたくもありません。
難しい話はやめてください。
とてもつまらないのでやめてください。
いいから死んでください。
うんざりだから死んでください。
そんなこと、くりかえしてばかりいるから、
長い比喩になった、これを皆殺しにしてください。そう言ってぼくは店をでた。昨日の晩ホテルでぼくと話した男の顔は不在で、しかし残された黒い手はまるで黒人のように手のひらが薄くぼやけていたから、去り際に握手をした。とても力強い握手だった。その男は帽子をあげて、ホテルの入口さよならをした途端に銃で打たれて死んだ。駆けつけた少女も打たれて死んだ。それに駆けつけた母親も打たれて死んだ、父親も死んだ、皆殺しだ、フロントマンも打たれた、付近の住民もうたれた、ようやく駆けつけた救急隊員も打たれた、それにかけつけた警察官も打たれた、ホテルの二階で性行為をはたらこうとしていたカップルも打たれた、窓から落ちて死んだ、僕の周りに何個か池が出来ていた。ぼくは一つ一つの水の味を確かめながら、遠くでみていた。鉛筆を走らせていた。しかし何もかけないスケッチブックを池に放り投げて、ぼくは膝を抱えていた。顔を上げても、そこには誰もいなかった、それでも待っていた。ぼくはまっていた、キーボードを叩いた。ぼくはそこに存在する。その意味が、とても愛おしいんだ、って。チャットで、愛を伝えようとした、ほどなくして、街路樹は、植えられるときに、邪魔になった木の根を、人によって切り取られるという話を思い出した、それは、生まれたれの赤ちゃんの手足を、切断してまま、小さな箱の中に生き埋めにすることと同じだって、誰かが言っていた。という話を思い出したのは、最近のことだ、なんて。なんで、思い出したのかわからないが、それでもぼくは、今日も本を読んだ。詩を書いて行き詰まり、小説を書いて一行でやめた。そして学校をやめて公園にでかけた、ベンチに寝転がって、暖かい日差しの中で、分厚い本を読んだ。そのとき木枯らしがぼくの上に、一枚の葉を降らせたとき、その葉を右手で掴んだとき、その葉脈を見つけたとき、その葉を握りつぶしたとき、喉が乾いて自販機に向かったとき、右手を開いて離したとき、バラバラになった木の葉をもう一度地面におとしたとき、その上からもう一度すりつぶしたとき、そのときのこと、昨日たべた女の話を、切り裂いた女の話を、夢の話を、誰かの夢を、そしてキミの話を、木の葉の話を、ぼくはもう一度、忘れるだろうか

文学極道

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