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赤青黄

選出作品 (投稿日時順 / 全6作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


骨メール。

  赤青黄

 還暦を迎える前になくなった祖父の頭の上に、僕の折蛙がのっていた。焼かれた祖父は骨になった。祖父の鎖骨を掴んで骨壷にいれたことまでは覚えているが、それ以降のことは何も覚えていない。それでも偶に、覚えていなかったことを数分間だけ思い出すときがあった。しかし、数分後にまた忘れた。今度は思い出したことを忘れた、という言葉だけ覚えている。そういうものが積み重なって僕は物忘れのヒドイニンゲンだ、ということだけが頭に積み重なっていって、僕はそう、こうした円環の中に生きているのだ!ということが分かった途端に、電車が駅について、そう、分かったことがまたわからなくなって、ずれていくことをまた積み重ねていった。オヤジ達が祖父の骨を繋げて遊んでいるのを僕は遠くでみていた。オヤジ達は、あ、こことここの骨が繋がった。そう、たしかこうこうすると、ほら、鎖骨ってこうつながってるんですよ。という始まりがあって、気が付けば夕方になっていた。僕は明日の朝食を買うために、町のパン屋に入った。ちりちりちり、とお店のベルがるるるるるるってなると、縮れ毛の顎鬚をした主人がちらりとこっちを見てきて、もう閉めるから出てってくれ、みたいな顔をしたので、僕はじゃぁ、あす、朝五時にきます、みたいな顔をしてチョココロネを一つ掴んでレジに持っていった。鼻で笑われたついでに四月、という始まりがあって、町には地図を片手に持った若者が大勢いた。ある人は自転車に跨って霊園のある丘から、下った先にある大きな港まで巡り、あるものは事前に調べた情報を頼りに決められた順列の組み合わせで路地を歩いた。どちらかというと、僕は友達の女の子と本を読んでいた。部屋の中は何もなかった。安っぽい本を乱暴に読んでいると、調度品という言葉がヤケに目に付いた。大体そう、部屋に置いてあるものは調度品。これで片付ければいいそうなので、調度買い物にいくことにした。出たついでに散歩をすることにした。僕のレトリックはやはり調度品くらいの精度しかないから、見渡せる景色も大体調度品で済ませられるから、僕は女の子と手をつないでいれば良かった。「それでいいの?」「いいんだ。」。」。」みたいな会話を繰り返している内に雨が降ってきた。僕と女の子の間だけ晴れていたとか、言ってみたいけど、ウソだもんね。僕たちは砂浜まで行くと、ただひたすらと堤防に乗って北へ北へと歩いた。波打ち際には等間隔で打ち上げられた魚が死んでいて、その隙間を縫うように男が埋まっていて女がそれを掘り起こし、子供たちがヘドロになった父の内臓をお城にして遊んでいた。お城はやっぱりもってかれて、ただ、骨だけが残った。強い雨だった。骨はまるで死んだ珊瑚礁みたいに、パチンと薪のはぜた音がした。るるるるる。僕は電話にでようとした。それはメールだった、もう少しでラインになる。


シグレタ 二篇

  赤青黄

シグレタII



「『死者の書』とかね、タイトルばっか読んでる。後、レビューとかね。しょうじき、なかみなんて、どうでもいいんだよ。むしろその本を読んだ人間が何をどう思うのか、それをどのようにうけいれているのか、いくのか、もしくはうけいれないのか、そういうことに興味があるんだ。多分、どれだけ優れた作品が目の前にあっても、そこにそれを、それらを読むヒトがいて、そこに何かを寄せるヒトがいて、その寄せられたなにかに、なにかを返すヒトがいなければ、こんなものいらないんだよ。

「ウソ

「わかるかい?

「例えば感傷って言って安く縛り直して

そしたらだれも

何もいわなくなるから

この改行みたいに


「てめぇはそこでくたばってろ

「みたいな
 きたないことば
 きたないってだれがきめた?
  
        だれかがきめた

がいねんや
しそうや
ひゆや


 ビニールで出来た川の水を飲めば
 ぼくたちがこうしていきているという
 実感が持てるよね


「という言葉全てが嘘だった。つまりここにある言葉ははじまりから間違っていた。こういう独白は全て感傷であり、オナニーであって、少し高級に言えばストリップ・ショウであって、これはボクの中にある表現欲であって、つまりオナニーだ。性的興奮のないオナニーである。それをここでさらけ出せることにボクは喜びを感じているし、ボクの作品を通して行われるレスポンスでもダイアローグでもいいけど、そういったもののセックスを画面越しで見ることができてシアワセだ。「幸せだった。と言ってしまえば、関係は終わるかもしれないが、実は終わらないのだよ。

「つながることをやめることはできないのよ。

「さぁ、

「どうでもいいからそこでくたばってろよ

「つまりは

「一度書き始めたニンゲンは

「やめることなんてできないのよ?

「もしくは死んじゃえばいいんだ

「あるいは死ぬしかない

「そんな、簡単に死ぬ死ぬいうから、君は(´・_・`)とかされんじゃない

「ダイジョウブ?

「だから見えを張ってるし、

「だから無関心だし

「チンカスなんだよ

「無関心とか、そんなのなれないし…

「とても美しい
 限りなく美しい
 けど、
 そのうつくしさが
 どこに根ざしているのか分からない
 
「うそ

「わかる

「そこにある

「いいからだまってろよ

「なにこれ?

「感傷だよ

「まちにでればいい

「出ればいいんだ

「書くのをやめろ

「全て感傷

「つまり、幾つかの声だった

「ボクの中に住んでいる沢山のヒトの群れが、多分色んな言葉を声に出して読んでるんです。ボクは俗なイメージでいう多重人格、的な物に侵されているのかもしれません。多重人格って奴は、ちょっと調べただけですけど。俗なイメージでいう、何人もの人格がヒトの頭に同居しているって訳じゃなくて、一つの人格を保てなくなったヒトの精神が崩壊してバラバラになったものが、一見すると二つ以上に見えて、なんとか、つまり元々は一つだったものがパズルのピーズみたいにバラバラになった、みたいな感じなんだそうで

「そんなことどうだっていいでしょ!

「ボクの言ってることは正しいし

「ただしくないし

「間違ってたら恥ずかしいし

「ガキなんだね

「ガキのどこがわるい?

「ガキってなんだよ

「逃げんなよ

「ガキなんだ

「君は病気なんだ

「こんなこと考えてるから、いつも情けないし

「こんなものに価値なんかないし

「ないならかくなよ

「ないからかくなよ

「でもこれしか書けないんだ

「だめ、

「つまらない

「やりなおし

「他人はお前を受容しないし

「する価値もないって

「ままが言ってるんだ

「ままなんていない

「価値ってなんだよ

「こうして問い詰めてった先に残る

「匂いみたいなもんさ

「               」

「そういう行間や空白や句読点が、ボクの全てで

「ウソ

「やっぱりウソなんだよ

「ウソの何がわるい

「若いし

「なによりだめだ

「言葉は

「繋がっているけど、それは網でしかないから、

「その隙間から色々落ちいくんだ

「それが悲しい!

「それは悲しい、

「それは悲しい?

「それか悲しい。

「埋めていかなきゃ

「ボクはシグレタ。語感がいいからって出来た。多分新しい言葉。だれかが使っていた言葉で、一度死んで蘇った言葉かもしれないけど。多分、これを書いた人間が作った新しいことば。そして小さな作品のタイトルになったことば。意味のないことば。それはことばじゃない? そうだね、概念がないから。うそ。あるよ。本当はあるよ。ここに書いてあることがそう、ボクの概念だよ?ここまで積み上げられた言葉全てがシグレタの概念だよ?これ以上小さくするのは無理、できないよ。これが全てだから。ここも今あなたが読んでいる言葉もそうさ、いいとかわるいとか、そういう話じゃないんだよ。だから、明日から使ってください。ボクは誰か、そう他人とかいないとしんじゃうんだよ。あなたが思ってるよりカンタンにね!でもボクはそんなの許さないから


「全てウソだ







シグレタI


3月に降りだした雨は、8月になっても止まない。雨が降り始めた日は、ちょうど雪が降っていた。繋がらない携帯電話を曇り空に向けてかざした。公衆電話に並ぶ人達の行列には沢山の種類の人間がいた。泥だらけの男が10円玉をせびってくる。次にボロボロな服を来た男が、隣町のボランティアへいくための交通費をせびってくる。次にマイクを持った男達が大勢押しかけてきて、何か話しなさいと言った。ありのままのことを喋ると、しかし、それは聞きたいことではなかったと言って男達は別の場所に向かった。ボクは多分若かったのだと、そのとき思った。


地震がきたあの日、と呼ばれるあの日、と名指される日に起きたことが、そうあっけなかったから、ボクはこうしてシグレタが書ける。かけた、


皆殺しの比喩

  赤青黄





しんでください
いいからしんでください
だからしんでください。
言わないでください。
何もいわないでください。
なにも伝えないでください。
いいから黙ってください。
つまらないのでしんでください。
まもなくしんでください。
どうでもいいので死んでください。
話しかけないでください。
こっちこないで、
黙って、
そして死んでください。

やめてください。
いい加減にしてください。


しんでください

しんでください

しんでください




 見知らぬ誰かの、長い髪の毛が一本、風呂上りの濡れたタオルに忍んでいた、女だろうか男だろうか。多分女だ。しかしそれは女であるか?女だ、いやしかし、だれだ?これは誰であるか。それはだれであるか?しかしここにはいない。どこにもいない。これは不在である。あたり前の話だ。人の気配はどこにもなく、つまり不在だ。それでしかない。隠してなどない。どこにもない。ひとつ、ひとつ数えながら、女の顔が、切り裂さかれている、これがどうしてなのか、きみに分かるだろうか。そうだ、思い出したぞ、集合写真だ、あの日、あの場所で撮った集合写真だ。これは誰だ。ここはどこだろう。そうだ、ここにいるのは誰だ。女は、女はどこにいる。答えろ。答えなさい。女はどこだ、どこにいる。部屋の中に女の姿はなく、いやある、いやない、いやある、というか、そもそも女が存在する筈がなかった。分からない。そうだ分からない。分からないのか?いや、わからないんだ。しかし困った。そこには、紛れもない女の髪の毛が存在する。訳とはなにか?言い訳とはなんだ?それをする理由がない、隠す理由がないんだ。分からない。分からないから分からない。しかし、それはどうでもいいことだった


オレは、女の髪を口に含んだ






これはゆめであろうか。


 女がオレの手足を鋸で切っていくのを黙ってみている。これは夢だ。つまらない夢の続きだ。と、オレは部屋をでる。鍵はなくしたままだ、オレは階段を下りる。しかし、どこにいても腹は減るものだ。オレは肉を食べた。誰の肉であるか?わからない、しかし、これは血だ。鼠の血だ。灰色の血である。送金が減らされることになった。壁に強く当たった。嘘だ。稼いだ金が、てめぇのオナニーに溶けていくなんざ悲しい。やめてくれ、どうかやめてくれ。おねがいだから死んで下さい。どうか可及的速やかにしんでください。例えば、オマエやオマエなんかは育てなきゃ良かった。例えば、お前に餌を与えなければよかった。例えば、お前を育てる代わりに別の子を育てりゃよかったんだ。仕方ねぇだろ!オレにどうしろっていうんだよ!そんな話を!週に一度!日曜日の夜に、の電話を、切断することができない、オレは再びかけなければいけない。やめてくれ、今にも死んでしまいそうだ。そうだ、髪を食べよう。これの伸びた髪はてめぇの髪の毛だ。女ではない。そこに電話線はない。他に何があるか。お前の顔だ。お前の顔が映っていた。オレはパソコンを開く。昨日、何処かで誰かが死んだ。話を誰かが噂になって流していた。誰が死んだ?誰が死んだんだ。あれは酷い有様だった。いや、そうじゃなくて。皆殺しだ。立て篭った人間が人間ごと吹き飛びやがったんだ。んな話あるかよ、つーか冗談だろ?いやマジなんだって。っていう動画はつまり動画だった。つまり嘘だ。端的に言えばウソだった。そうか、嘘なんだ。ウソだったんだ!例えば、誰かが捕まった話をしよう。例えば昨日、ダチの父親が死んだ夢を見よう。例えば、オレが葬式に行かなかった話や、例えば、服用した薬が、違法だったことについて話そう。想像しよう。さぁ、イメージを膨らませて。想像するんだ。例えば、世界中のなにがしの、それがしの、だれがしの、何がしが、誰がしによって、例えられた比喩によって、ここに一万本の比喩が咲くんです。どうですか。すばらしいでしょう。とても素晴らしいと思います。確かに素晴らしいですね。みんなつながるんだ。一つのわっかになる。キミとボクは繋がる。あるいは、ゲームがアップデートされた時の話をしよう。懐かしいな。うその話をしよう。物語を、子供に聴かせるとき、例えば、そこで死んだ話をしよう。射精の話をしよう。一億人の精子が三度の性行為で死んでいく話を。おれがついに果てて、深い深い、曼荼羅の果て、つまり宇宙の果てにおいて、黄ばんだブリーフの底の中で、ゆりかごにそっと揺られながら、曼荼羅のなかで、再び射精する話をしよう。そこでお前が生まれた話をしよう。嘘の話をしよう。繰り返し繰り返す嘘の話をしよう。しかし、そこで終わらない話をしようと。どうする?いや、どうしようもないが、俺は童貞だ。オレは童貞である。そういうのが、一緒にくべられている炎の話をしよう。その世界が、すぐ側で固まっている話をしよう。というのがうそだっていう話をしたら?きみはしかし、その使い方は間違ってる!その使い方をオレの方が知っている。というのはほんと?いいや、うそだね。という嘘の中で、マラをこすっているのもうそだ、というつまらない夢を、よりもっと、正しく、正確な形でお包いたしましょう!



 夜。場末のバーで、中年男が尻を振っている側で、童貞がカクテルを飲んでいると、となりに黒ずくめの格好をした男が座った。男は適当な酒を注文すると、それをぐびぐびと飲み始めた。童貞は隣の男にタバコを差し出してみようと思った。童貞がバーにきたのは、これが初めてだった。というかそもそも、ここが場末であるかどうかなんて、童貞はまるでわかっていなかった。場末の意味なんざ知らなかった。だからといって意味を調べる気は毛頭なかった。そして黒づくめの男の正体は死神だった。死神は今日初めてセックスをしたのだという




 この話をするたびに君は死ぬ。もう一度殺され、そして何度も殺害されるだろう、そして何度も殴られるだろう、そしていずれ撲殺されるだろう、終わらないからおわらないのである。ゆえにリフレイン、リフレインと名付けられた、ある人がぼくに向かって言いました。大事なことっていうのは簡単に結論付けてはいけません。と誰かがいいました。尊敬できる人の言葉っていうのはよく覚えているもんだね。うそ、んなこたないよ。ある種のキチガイがそこにいました。僕は生まれて初めてギターを握った。初めてピアノを弾きました。鍵盤を叩きました。大声を出しました。それがはじめての歌でした。ぼくはそれに感動して鉛筆を握りました。すると何もかけませんでした。黒い●を書きました。デタラメなスケッチをしました。デタラメな丸をいくつか書いてみました。それは顔になりました。でも、それが、何になったかい?って聞かれたら、じゃぁオマエはどこに立ってるんだって、答えられるのかい?と言って答えられるのかい?って、じゃぁそしたらオマエは答えられるのかい?ってHey!!Hey!!Hey!!Fuck!!Fuck!!Fuck!!って壁に腕付いて、影絵の中で腰を振る。そうやって叫ぶ俺の舌は太すぎて、綺麗なRが巻けないんだ




「もっとかきなさい
「マスを掻くんだ
「掻き毟らないと
「包茎を長い年月をかけ剥いていくように
「花びらを一枚一枚めくるように
「もういちど比喩を書きなさい
「それを詩文によってしたためなさい
「手紙をかきましょう
「誰かに向けてかくのです
「誰にだっていいのです
「あなたは、かかなければなりません




 ぼくが選んだ比喩は三番目の比喩だ。箱に敷き詰められた、だれかが、どこかで書いた文章を一つ、一つ、綺麗で透明な、それこそガラス張りのショーケースに飾った小さな町の本屋のおじさんがぼくに、比喩をプレゼントしてくれるっていうんだ。しかしそれが、どんな比喩がいいのか、おじさんに尋ねられても、ぼくにはどれも同じに見えて、何も答えることができなかった。おじさんの顔には髭が生えていた。何本も皺が刻まれていた。唇には太くて真っ赤な口紅が何本も縫い付けられていた。おじさんは話すことができなかった。それでも、これがわたしの選んだ比喩だから受け入れましょうって。そうだ、そうなんだ。僕たちは選んだ比喩を持ち歩くことができるという。まるで、なにかのゲームみたいに。でも、何かのゲームみたいに、比喩とお別れすることはできないんだ。そのことを忘れてはいけない。わかった、おじさん。ぼくは三番目の比喩を身につけた。まるで、のろいのひゆみたいに




死んでください。
いいから死んでください。
やめてください。
言い訳はいりません。
ききたくもありません。
難しい話はやめてください。
とてもつまらないのでやめてください。
いいから死んでください。
うんざりだから死んでください。
そんなこと、くりかえしてばかりいるから、
長い比喩になった、これを皆殺しにしてください。そう言ってぼくは店をでた。昨日の晩ホテルでぼくと話した男の顔は不在で、しかし残された黒い手はまるで黒人のように手のひらが薄くぼやけていたから、去り際に握手をした。とても力強い握手だった。その男は帽子をあげて、ホテルの入口さよならをした途端に銃で打たれて死んだ。駆けつけた少女も打たれて死んだ。それに駆けつけた母親も打たれて死んだ、父親も死んだ、皆殺しだ、フロントマンも打たれた、付近の住民もうたれた、ようやく駆けつけた救急隊員も打たれた、それにかけつけた警察官も打たれた、ホテルの二階で性行為をはたらこうとしていたカップルも打たれた、窓から落ちて死んだ、僕の周りに何個か池が出来ていた。ぼくは一つ一つの水の味を確かめながら、遠くでみていた。鉛筆を走らせていた。しかし何もかけないスケッチブックを池に放り投げて、ぼくは膝を抱えていた。顔を上げても、そこには誰もいなかった、それでも待っていた。ぼくはまっていた、キーボードを叩いた。ぼくはそこに存在する。その意味が、とても愛おしいんだ、って。チャットで、愛を伝えようとした、ほどなくして、街路樹は、植えられるときに、邪魔になった木の根を、人によって切り取られるという話を思い出した、それは、生まれたれの赤ちゃんの手足を、切断してまま、小さな箱の中に生き埋めにすることと同じだって、誰かが言っていた。という話を思い出したのは、最近のことだ、なんて。なんで、思い出したのかわからないが、それでもぼくは、今日も本を読んだ。詩を書いて行き詰まり、小説を書いて一行でやめた。そして学校をやめて公園にでかけた、ベンチに寝転がって、暖かい日差しの中で、分厚い本を読んだ。そのとき木枯らしがぼくの上に、一枚の葉を降らせたとき、その葉を右手で掴んだとき、その葉脈を見つけたとき、その葉を握りつぶしたとき、喉が乾いて自販機に向かったとき、右手を開いて離したとき、バラバラになった木の葉をもう一度地面におとしたとき、その上からもう一度すりつぶしたとき、そのときのこと、昨日たべた女の話を、切り裂いた女の話を、夢の話を、誰かの夢を、そしてキミの話を、木の葉の話を、ぼくはもう一度、忘れるだろうか


おそらく、歯で終わる話

  赤青黄


「歯、は、ハ、が欠けてしまったんです」


 ここは電車の中だ。ちなみに地下鉄である。当たり前だが窓の外は真っ黒である。そして、取引先の男と並んで座っている。目の前には女がいて、黙々と化粧をしている。ここは親切された男性専用車両だった。俺と取引先の男と女と、その三人の他に乗客がいなかった。俺たち二人は適当に足を伸ばすと、適当にズボンを脱ぎ、パンツを床に下ろした。女がこちらを全く顧みずにコンパクトに向かって口紅をつけている間、俺たちは今朝のビックで関係ない奴にはまるで関係のない、株価暴落のニュースをオカズにしながら自慰行為でストレスを発散させていた。最近はやりのモーニングショットというやつだ。化粧の段階というものを俺はあまりよく知らないが、女がアイプチをしている所はやはり気味が悪かった。すると何故か取引先の男が、急に昨日みた映画の批評を始めた。だが、その映画を見たこともなければ見る予定もなかった私にとっては正にどうでもいいことだった。私はその映画をみた風に装って適当に話を合わせながら、女を見て適当に通勤時間を潰すことにした。季節は春。段々と日差しが暖かくなってきたその春の兆しを一心に感じ、背負いながら、これから新しく始まる中学高の生活に胸を躍らせつつ、ラン、ランラララン↘ラン↗ラン↘と、まっすぐに伸びる坂を健気にスキップしていく、新一年共の麗らかな笑顔を見ていると、心が安らぎませんかと、隣にいた肩を叩こうとするが、手に当たるのは空気に貼られた不在の新聞広告の裏紙だけだった。私の左腕は文字通り空を掠ってそのままドブに転落し、ついでに左足も突っ込んで、更には右腕に持ったカバンは道路まで転がってトラックに轢かれた。私は四月早々にして、卸たての新品のスーツを台無しにしてしまった。街頭のテレビに流れるニュース速報によれば、一昨日の夜に誰かの母親が何かのワケによって急死したというが、その母親の通夜には誰もこなかったそうだ。僕はその時、回覧板をお隣さん家に届けに行かなければならなかったのだが、玄関を出た時ちょうどに、時馴染みの郵便屋さんが「僕宛に手紙が来ている」と言って速達だかなんだか知らないけど、慌ててハンコとサインを求めてきたので、色々とまぁおかしかったけれど、それを口実にして回すのをやめることにした。勿論親には内緒である。それから次に、カレンダーを通じて親に頼まれたことをすることにした。まず16時ぴったりに家に帰って学校の宿題を済ませる。それが終わったら浴槽を丹念に掃除する。その間にガスコンロで湯を沸かす。そしたら屍体を玄関から引っ張ってきて張っておいた湯船の中に浸し、そのまま放置して適当に臭くなったら緩くなったら肉を削ぎ落とし、むき出しになった骨を一本一本丁寧に洗い、最後に大きな瓶の中に入れて埋葬する。一番肝心なのは埋葬先のホテルに泊まって指定した女と交わり子を設けること、そして生まれた日に海に行って、生まれた子供を二人の間に挟んでゆっくり海岸線を歩いている所を上手く射殺されることだ。そして、僕は海に落とされて魚に食べられることになる。


「歯がかけてしまったんです」
「なんで、どうしてです?」
「天皇を、ちょっとこう、食べちゃいまして」
「そりゃぁ物騒ですね」


 取引先の男はラーメンを食べたあとにタバコを吸った。銘柄はわからない。ただ、そこまで癖のある臭いじゃないことは確かだ。普通のタバコという感じである。「普通っていうのは、難しいよね」「定義するのが面倒だから普通なんですよ」割り箸を綺麗に割って、ラーメンを啜る。その後シャワーを浴びる。取引先の男の股間には一物がついておらず、代わりに大きな穴があいていた。これは…一体、なんです? などという野暮な質問はしなかった。多分、これは俺が読んだ小説の中に出てきた女と、同じ理由なんだろうなと思った。双子の姉弟の内、姉が早くに死んでしまったので自分の性器を切り落として代わりに穴をあけることで二つを一つにしようとした。みたいな。感じだったような気がする。それよりも、その本の記述を使って沢山自慰行為をしたことの方が今でもはっきり憶えている。


 女が化粧している。男を気にせず化粧している。しかし正確には少しだけ違うものが混じっている。という話を、誰かがどこかでしている気がする。おそらく前後で、隣の車両に繋がる蛇腹状の通路で。通路には沢山の目が媚びり付いている。例えばの話、その視線がトンネルの壁に彫刻された、様々な文明の文様を古ぼけた映写機のように斑に映している。これは広告で、つまり人類の歴史を広告したものだ。歴史とは常に断続的である。その晩、女と取引先の男は性交したというが審議の程は確かではない。私はタバコを吸っている。ビチョビチョになったズボンが乾くまでタバコを吸っている。そして夜通し起きている。隣の部屋からヒソヒソ話や、笑い声が漏れる。私は何もしていないのに壁を叩いてくる。そして「歯が欠けてしまったんですよ」というオチの物語が、いつの間にか感動的な映画に仕上がったことを、取引先の男は熱弁していた。


 女は相変わらず化粧をしている。その様子が動画サイトを通じて満員の地下鉄の車窓に流れていく。その光景は正にファインダーを開いたカメラの写真みたいに、天球に尾を引いていく神様の名前を持った星星や星座のように、底はどこにもなかった。星が焼かれている間に、僕や私たちは何れ死んでしまうのでしょう。今日は始発で会社に向かう予定だった。私の勤めている会社の性質は、この際どうだっていいが、ただ話しておきたいことというのはあって、それは僕が奇形児だということだ。割り箸は常に三つに折れる。そしてラーメンの麺は絶対に掴めない。常に日差しの当たらない方の壁に沿って廊下を歩いている。一番問題なのは、取ってつけたような奇形である事だ。腕が中途半端に曲がっている程度の奇形の何が問題か。奇形の中の存在が軽くなる。意識はずっとそこにあるが視線は常にずれていく。同じだが違う。という単純な理由が根底にある。だから、ニキビだらけの男と組体操をすることによって今をどうにか生きている。でも多分、こいつは頭が切れるので高校は、多分別の所になってしまうでしょう。そうしたら僕、どうすればいいんでしょうか? どうしたらいいと思いますか? 深夜ラジオに中高生からの重い質問が突きつけられ。困ったMCが、電波を通じて色々な人に共有してごまかそうとしました。そんな時に限って例外が入り込んでくるのです。「僕の方がもっと悲惨だから頑張って」と、違うそうじゃない。助けて欲しいんだ。誰か助けてください。小説やドラマの正解は僕を救ってくれません。
 そして、少年たちが電車に乗り込んでくる。俺は皮に包まれた惨めな陰茎を見せつけながら自慰を続ける。


 女はまだ化粧をしている。


「化粧っていうかメイク」
「…」
「おじさん、隣、いいですか」
「いいよ」
「君も一緒にどうだね」
「それじゃぁお言葉に甘えて…」

 順番を間違えたのか、もういちど最初から化粧をやり直している。床には大量の丸まったティッシュと大量のメイク落としシートが散乱している、その隙間からそっとお札に付いた沢山の目がこちらを見ている感じがする。株価が暴落して取引先の男は地下鉄に身を投げたということだ、というわけで、最初からオナニーをやり直し。


きっと楽しい生活

  赤青黄


 分かりません。
自分の悲しみが分かりません。きっと死ぬまでわかんないんだろうな。僕は私は。きみはそうじゃないのか。そうか。そこまで深刻になる必要はないか。本を開けばいいんだろうか。何か歌に込めればいいんだろうか。そうか、そうかもしれないな。困ったな。

寝ていると、風が気持ちいいね。豊かな気持ちになるね。少しだけだね。太陽が昇って落ちていくのを見ていると段々汗を掻いてくるね。そして飽きてくるね。一日はとても長いね。そして短いんだね。体を起こして水を飲みに行きましょう。鉄の味がするね。とても不味くて、きっとおいしいね。そういう事なんだろうね。あなたは今どう過ごしていますか? どうもしないですか。僕はさっきまでバスの中で本を読んでいました。 小さな漫画でしたので、すぐに読み終わってしまいました。終わってしまったのです。丁度夕暮れ時でした。

誕生日を迎えました。ケーキを一つ買ってきて食べました、とてもおいしかったです。それで、それで、部屋の電気を消して寝ました。後一年したら、仕事が始まるそうです。友達に聞きました。それはきっと苦しいものだそうです。親からも言われました。あなたの今いる時が人生における最高の時間で、それからはもう苦しくなるだけだと言われました。そうですか、とても良く分かりました。

分かりません。自分が何を言いたいのか分かりません。ただ生きています。どうしようもなく生きています。それで、それで、だから今は蛙の声を聴いています。本を読んでいます。自分の気持ちを詩にしたためています。それで、毎日を健康に生きています。歌を歌っています。洗濯しています。音楽を聴いています。玄関を綺麗に掃除しています。 隣には誰もいません。そういう事がとても望ましいからです。

言いたい事が沢山あるのですが、どれもそこまで言いたい訳じゃないです。そうですか、それで、どうしろっていうんですかね? なんか言ったらどうよ、と言われても困るので、適当に気の合う話題で話をしましょう。楽しくないお話がきっと楽しくなる時が来るんだと思います。それできっと、皆が幸せになればいいと思います。いや、これは嘘だな。皆要らないので電話、切ります。それじゃあ、二度と電話すんなボケが。


改装

  赤青黄

 ストーブを付けても、くしゃみが出た
 だから毛布を取り出してくるまっていると、雨の音が聞こえ始めた
 窓を開けると風を感じた
 そして、雨と共に沢山の卵が落ちてきた
 割れた卵の中には沢山のこどもたちが入っていた

 これらは雨。
 そして僕たちは12歳だった。

 僕たちっていうのは、僕と弟の事だ。
 病気がちで、痩せっぽっちの弟は、真面目な父と母によって大切に育てられた、人間だった。
 灯油が切れ、途端に冷めていく部屋の温度、の感覚、
 みたいな、



―ガソリンスタンドへ行って灯油を貰ってきなさい
―上手いやり方は何かの本に書いてあるはずだ
―金はポケットに入っている
―弟が凍ってしまう前に、何か出来る事がない訳じゃない



 顔がこちらに向いてきたので、
 なんとなく目を逸らした
 人の肉は溶けて骨ばかりの手と僕の掌は繋がれた、
 鎖の面倒を見ている優しいお兄さん、
 家族、
 みたいなものの裏側に潜んでいる
 醜い表現が、弟を形容する
 具体的には、
 アメコミで覚えたファックを脳内で乱射する
 なぜか?
 暗く冷たい、凍り始めた小さな世界、
 みたいな物がここにあった。
 とてもとても
 小さな世界、
 たとえば、穴蔵から見上げたそらのように、
 そこは何もないくせに、手を伸ばせば何かあるはずだ、
 考えても考えても自分に萎えてるばかりの感情の《吐露と圧縮》
 うげぇ!
 きもっつ!
 そんな事しか言えねぇのけ、
 なぁ、
 おい、と、
 つまらないな比喩。 
 そして、それらは適当に結びつき、
 お花畑になった。
 flower
 顔を両手でがっちりと掴まれた
 説教としての花束、
 コンプレックスの解決を計りましょう、
 先生がいっしょに付いてあげるから大丈夫よ、
 僕は最高に恵まれている、
 故のコンプレックス、
 兄として、
 僕は弟の手を握っている。
 そして灯油を買わなければならない。
 仕方のない事ばかりが、転々とそこにあった。
 本はゴミだ、
 音楽もゴミだ、
 全部ゴミだ、
 でも、救われないから、助けてください。
 そんな物、どこかにあるんやで、
 この際あたって砕けよう、
 うんこうんこ、
 みんなうんこ、とても綺麗で優しい縮れ気味のうんこメロディー
 清潔なうんこ、気高きうんこ、
 うんこラプソディー、うんこコーラス、うんこヒップホップ、
 喉元で焼ける乳牛と炭酸で目が焼け死ぬような精液、
 セックス、
 当たり前のように愛を求めて、灯油、
 つまり to you ふぉーゆー、
 汚ったねぇな、 
 と、
 正に即興のフレーズとメロディー
 で、雨の中、を
 誰も何も聞いちゃいないし、なんならクソで、隣人はキモっ! て電車の中でキモっ! ていうようないい迷惑で、
 音楽は
 やっぱりくそじゃなくて
 俺がクソだったのだ、
 という、
 弟をソリに乗せてガソリンスタンドへ向かった、
 白身の雪は冷たい、灰色の羊水の中で、
 黙って何もかも聞いていた、
 弟は、という悲しみが残り、
 そして金はある、
 必要な物は全てここに揃っていった、
 ここにあるから、
 俺に灯油を分けてくれないか

 …というオチもうんざりだ、
 何が灯油だ、
 こんなもんしか書けねぇのか、
 弟は、墨汁の出汁みたいなもんだ、
 俺の書き初めの質、 
 その前に書き初めのできちゃう余裕、
 汚い筆使いとか、
 そ〜ファーそ〜ファー、半音で移行しちゃう?
 的な散漫ポエム、チャック開いたよナ、ズレかかった思考、とか、
 キモくてダサくて、
 俺死んじゃいそう! 悶えちゃうぅ! 死んじゃいそうぅ!
 もう何も書く事がないなんてっていう喜び、慈しみ、悲しみ、これくらいしかないの、
 僕の比喩は生ゴミだから
 弟を利用しました、
 楽しい懺悔とつまらないネタばらしと、もういい加減終わって欲しい気持ちと、
 つまらない映画見てるみたいじゃん、きんもいよねーとかなんとか同情しちゃう感じ でそんな貴方にキュンキュンきちゃうよみたいな、これはメンヘラだ。
 何も書く事がないのに書いちゃう自分とか灯油みたいに綺麗になりたいし、燃えたいよね、焚き火っぽい浪漫はいらないから俺に何か食物をよこせ、ください、僕にください。必要な物は全て、どこにもここにもありません。
 こんな物誰が読むんですが、
 ぼくがですか?
 きいちゃいられねぇな、他をあたれよ。


〈しつもん〉

 たすけてください

〈アドバイス〉

 当たって砕けろの精神ですけど、んな物ゴミですよ。ある程度戦略性みたいなのは必要です。まずはプレゼンをしなければ、伝える事が重要なのです。そもそも伝わらなければお話に
 ならないのです。そこから勝負は始まっているのです。自分の希望だけ唱えるだけじゃいけないのです。誰もあなたの事を必要としないのです。あなたの人生は有能ではないのです。ですから、それをどう上手く着飾るか、ただそれだけなのです。偽装するのです。他に何もいらないのです。


と、
あなたは、
と、指さされて、
げぼみたいな説教で、
と、僕は弟の顔を見た。
そして、新しい雨ha降る、
he、
それでも生きている、
四肢の無いからだ
声もなく
つまり言葉のない、
瞳の色はなにいろだ、
ha^
 to  息継ぎして
 唇の開く音、
 だけがそこにあり、
 俺は聞いた
 聞かなければならぬ、
 吐息の音が詩、
 それゆえに詩だと思いました、
 生きるように詩
炊飯器の炊けた音がして、蓋を開けました、
ストーブはやめだ、
電気でエアコンだ、
パソコンでテキストエディターを開き、
思考停止、
長々と同じ物を書こう、
つまり娯楽だ。
人生には娯楽が必要だった
人を笑わせたい、
誰かの為に、
日常を楽しさで彩りたい、
それは単純に良いことだ。
笑いは人を救う。
定義などくそくらえで、
明日の前に今を、
どんな土砂降りでも、今が楽しければ、
それでいいのだ!
と、そしてそれらは、希望に繋がるのだ、
という虚飾と私で、
だからつまり、ループする、
私の創作は弟であり、
弟は私の創作だった、
こんな事、
友達に言っても笑われるだけで、
全て凍える吹雪で、
中二病なんでしょう。
それでも私は書いた、
声の鳴らない弟の為に、
文字を費やす事で大人になった、
恵まれない弟は
恵まれた私の創作

 灯油を棄て吐いた痩躯、で斧をひとふり、で、ストーン、と真っ二つ、に、割れた、私の皮膚、は比喩で、ニキビ、やアザだらけの、美しい細身の青い眼の破片、つまり四肢をもがれた弟の体、瞳は、言葉を持ち、それは私の創作、私の創作、私の創作、呪文のような言霊は繰り返しのメロディー、ゆりかごから墓場まで、私はソリを曳き、乳母車を押す、刀は常に折れたサムライのように髷が常に弛れたまま、私の創作私の創作、

 つまりそばかす、
 染みだらけの言葉、
 熱湯じみた言葉
 両親心配、
 皮膚感覚、
 鳥肌と嫌悪感で、
 適度に温めたレタスのようなしんなり感覚
 で、射精する、
 井戸に向かって、
 白い雨を降らせる、

 ガソリンスタンドは潰れるんや、
 もうすぐエコの時代なんや、
 コンプレックスはとうに消えかかった青二才のペンは
 もうどこにもならないまま、
 冷え切った雨が止まないなら、
 書くしかないのか?
 もういい加減辞めたいので誰か止めてください。

 ヤンデレかっ! ヤンデレなのかっ! かまってちゃんなのかっ! でもそういう弱さも世の中で認められるべきだ。甘えるな! という事も可能だ。 とても素晴らしい気持ちで皮膚感覚で、やはり再度脱皮するしかあるまい、何を迷っているのだ、弟など殺してしまえばいい。創作の中で、再度殺すしかないし、殺せばいいと思う。仕方のないことだし、犠牲はつきものだ。戦争は起きるし、力は暴走するものだし、権力はどこにでもあるし、有能な奴は最初から有能だし、無能はかすでごみはくず、
 弟は君にとってゴミだし、必要のないもので。
 全き存在としてのゴミ、である事になぜ気がつかなかったのだろうかと、余計な足枷じゃぁないのこいつは、お前の健康人生を狂わせた原因は全てこいつにあるし、お前も確かにゴミだがこいつもゴミだ。お前以上にゴミだと、質素倹約をモットーに生きる人間の鏡みたいな君を締め上げる嵒でありクズ、寄生虫、カラスであり野良猫野良犬、野犬であり駄馬駄馬ダバであると私は君が思っているのに言えない事を言ってあげたい。君の代弁をしてあげたい。君の変わりの言葉を用いて弟を批評しよう。


 薪の爆ぜる音で、長い説教から起きた。
 僕は12歳で隣には弟がいる。
 僕たちはいっしょの毛布に包まっていて、
 同じ時間、同じ季節、同じ年に生まれた、双子であり、ただ、四肢だけのない体。
 声を持たない喉、ただ瞳と耳だけがあり、
 それらは僕に語りかける? 
 わからない。何もわからない。そして、僕は弟がいる限り未来に苦しむ事がわかっていた。
 12歳の冬のよるに、両親は誰かの葬式でいない、冷えた部屋の中で、
 俺は弟をここで殺すべきなんだろうか、
 昼間に探して隠し持っておいたアイスピックを胸に突き刺せば全て終わりだった。
 土砂降りは屋根を叩く、
 明日は俺たちの誕生日だ、
 弟の目は俺を見つめている、
 雨の音と弟の瞳の青色や、
 卵の割れる音、
 胎児逹の鳴き声は
 ぎゃあぎゃあと窓の外で聞こえない。
 土の上で孵った、
 聞こえるはずのない音、
 開音節の鳴き声で
 しかし、
 僕は弟を殺せなかった、
 つまり私は、
 単純な感じで改装に失敗する、

文学極道

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