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作品 - 20151202_232_8467p

  • [優]  業務 - zero  (2015-12)

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業務

  zero

会社で働くようになると、仕事の能率を上げる行為や仕事に必要な行為は、仕事そのものでなくとも「業務」扱いされる。例えば、同僚のことをよく知ることも業務だし、同僚と親睦を深めることも業務だ。休暇をしっかり取ることも業務だし、飲み会に参加することも業務だ。社会人の業務は実に幅広い領域をカバーしている。
例えば、この間私は万引きをした。これもまた業務の一環である。万引きをするくらいの勇気は仕事上必要だし、人の目を欺いて素早く行動することも、迅速さが要求される我々の仕事には必要だ。なによりも、正しい法の領域から少し逸脱してみること、これは今後上役になっていくに従い少しずつ身につけなければならないスキルだ。万引きもまた業務なのである。
そして、私は店員に見つかり、事務所に連れて行かれ、詰問されても反省の意を示さなかったため、警察に引き渡された。これもまた業務の一環である。まず、異業種の事務所がどんなふうに作られているか知ることは仕事上参考になるし、簡単に折れない気持ちの強さはどんな仕事にも必要である。さらに、巨大な権力組織である警察の内情を知るなど、同じように組織で動いている私の業務上も参考になる点が多い。
さて、警察に呼ばれてからは、私はひたすら反省の意を示し、店にも丁寧に謝罪し、結局微罪処分で終わった。これもまた業務の一環である。会社で一番必要なのはこのような演技であり、特に謝罪する演技は何よりも必要である。それに、自分が仕事でミスした際にはそれ以降ミスしないよう反省し自己分析する必要があるので、反省の経験も仕事に活かされていく。
その後、当然のように会社から懲戒処分を受けた。減給3か月である。これもまた業務だ、と言いたいところだが、さすがの私もこれはおかしいと思った。万引きは業務の一環であったはずだ。私の能力を高めるための行為であって、会社に貢献する行為のはずである。それがなぜ懲戒処分を受けるのだろう。これはおかしい。だが私はすぐに納得した。これは私に給料の重さを実感させるための教育的配慮であり、給料を会社からもらって働いているという労働関係の基本を実感させるための研修のようなものであり、やはり業務の一環なのである。会社で働いている以上、いかなることも業務なのだ。

文学極道

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