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作品 - 20151128_083_8459p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


かなしみ 

  前田ふむふむ

   

わたしは みずがない渇いた海原で
孤独な一匹の幻魚の姿をしていたときに見た
色とりどりの絵具を混ぜ合わせたような
漆黒の夕暮れのなかで
朦朧として浮き上がる白骨の黄昏と
共鳴していたかなしみを
無音の慟哭の声を上げて
抱きしめている

赤茶けた砂漠の
絶え間なく変わっていく文様のように
こころは激しくゆれているが
たちまち
凡庸に静まっていく湖面にすがたを変える
その慌ただしき曲折
みずうみには 誰にも知られずに
許されざる過去が沈んでいるだろうか
気がつけば 即興的に濃度が決められている
気紛れな塩水が溶けている
この乾涸びたこころを
剃刀で切り裂いているが
一滴の血も流れない
わたしは ほんとうは 保身の城のなかで
乾いた涙を流しているのだろうか
わたしは 絶望する母親のように
血まみれの胎児を抱いて
強風の吹きすさぶ岸壁の上に佇み茫然としている
だが その赤子こそが 自分であることを
雲に隠れたぼんやりと映る弦月のように
はっきりと認めようとはしない
わたしは 偽りの岩なのだろうか

けれど 冷たい深淵が瞬き 立ち上がる現実を
すべて口に含み 飲み込んでしまえば
こころの壁の 涼やかな水底に浸るわたしは
都会の片隅で
口笛を吹きながら 他人の鏡に映る
自分の青白い顔に
ふてぶてしい薄笑いを浮かべても
霞んでいく瞳のなかの 黒点にある広々とした荒野では
おのずと熱い溢れる涙が
止めどなく流れて落ちている
震える頬に 震える口元に 震える手の中に

今日もわたしは 暗い部屋の片隅で 寂しく
わたしという赤子のかなしみを抱きしめている

文学極道

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