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作品 - 20151116_585_8425p

  • [優]  #05 - 田中恭平  (2015-11)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


#05

  田中恭平


This is a pen.
そう
これは、This is a pen.
おれの握っている物は、ペンなんだよな


当たり前のこと
それが、間違っていないことに
慄いてしまうようになった


病院の敷地を、超境することは
毎晩、ギターフィードバック・ノイズと
ガナりと
餓鬼への挑発で
──超越していたから
さもないことだった


はじめて
ギグを見にいって、夜更けまでねばって
テキトーにジャムってるロッカー達を
眺めているときは
さいわいだった
火のように熱かった、──感興!


「おい、そこの餓鬼、観てるだけでいいのか?
 ギター貸してやるから、ジャムってみろよ」
「ああ、ぼくが弾くと、ジャムのレベルが下がりますから」
  謙遜して、そう答えると、今度は随所から
「そりゃ、そうだわなぁ」

死にてぇ、って
常々思っていたつもりだったけど
ほんとうに死にたいと、思ったのは
それが最初か

でも

当たり前に死にたい
と思うことが
──間違っていないこと、
それは怖くないな


林を抜けて森を抜けて
白い患者服を脱げば
グラッジな、レッド・ネックスタイルで
くそロック・スターだ
くそロック・スターであるということだけで
病棟の外、喫煙所に行かせてもらえたら
逃げだすことは、容易いだろ

病院は、少し考えた方がいいな
皮肉屋
ゴシップに書かれた通り、おれは皮肉屋なまま
林を抜けて森を抜けて


クリス、

クリスをおもっているけど
クリスが、クリスであることは当たり前で、って
考えてしまうことは、さいわいだよ
はじめておれがマリファナを喫ったと
きみへ告白したとき
きみは、どんな顔をしていたっけ
悲しみの果て
何があるかなんて
おれは知らない
見たこともない
ただ、あなたの顔が、浮かんで消えるだろう、と
 ハハッ、
浮かばないな

また降下していくのか
わからない
おれは、他者ではないから


深夜テレビで、仏教漬けになったっけ
いま、落ち着かない
印税で買った、家のテレビを点けても
もう、仏教講座はやってない
まあ、ヘロインキメて悟るのと
苦行して悟るのと
それは、同じ悟りかな
悟る、って何か
わからないだけ、体がふるえる
存在する、
当たり前のことが
間違ってない、ってことが
怖くなって
怖いのは、救われないからだ
だからまた
血管へ針を射す
ツメタサ、
カンコウ、


This is a pen.
そう
これは、This is a pen.
おれの握っている物はペン
当たり前のことが
間違っていないことへ
慄きつつ
筆を走らせる
走らせた筆はころぶ
丁寧、抱えてやって
立たせてやって
また、筆を走らせてやる
背中を押してやる
筆の走りの速度が
わからなくなってきてしまって
ああ
時間の概念がなくなった



仏陀へ

これは明らかに弱々しい、幼稚な馬鹿の言葉だ
だから、理解するのは簡単だろ
何年もの間
パンクロックのすべての警鐘は
独立心
コミュニティーを、受け入れることに関係していた
いま その論理へはじめて入門して以来、ほんとうであったと感じるよ

おれはずっと長いこと
音楽を聴くこと
曲を作ること
何かを書くことに
喜びを感じなくなってしまった

ステージ裏へ戻って
照明がすべて消え
熱狂的な聴衆の、絶叫をもってしても
聴衆の、愛と崇拝を喜び
楽しんでいたフレディ・マーキュリーが感じたように
喜び、楽しみを感じることはできなかった

フレディ・マーキュリーみたいにできるのは
本当に立派で、羨ましいと思う

おれは、みんなに嘘をつくの嫌だ
ひとりも騙したくない
おれが考える、最も重い罪とは
百パーセント、楽しい、と嘘をつき
ふりをして
ひとを騙すこと

ステージへ出ていく前
タイムカードを押しているような気分だった



愛してる



間違いなく
それが、銃口であることに慄きもせず
銃口を
口に咥えた

銃口は
鉄の味がして、冷たかった

それは
当たり前のことなのに
間違っているような気がして
すこしだけ、笑ってしまった








※ロックバンド、エレファントカシマシの楽曲「悲しみの果て」より歌詞引用あり。
 しかし句読点を配し、厳密な引用ではない。
※カート・コベインの遺書より引用あり。訳は筆者に寄る。

 

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