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作品 - 20151109_352_8417p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


陳さん

  湯煙

大手工場での流れ作業がはねれば
陳さん
ぼくら毎日
タフ過ぎる真夏の西日を浴び
目を細めてアスファルトの上
途中公園まで自転車走らせて
(あなたが話しかける
(何度も何度も僕の名を呼ぶ
(すっかり黒くなった
(くしゃくしゃの丸顔
(片言でない日本語で


木陰のベンチに腰掛け
デカビタCの太い瓶を握りごくごく
二人して喉へ流し込んだ
そびえたつ大樹の緑が
てらてらと風に輝き
陳さん
誕生日が同じだと知った時の驚き
今でも忘れない
あなたと過ごす時が楽しかった。


技能研修に励んでいた
数人の若者たち
あなたと同郷だと知り
ここぞとばかりに話しかける
皆がニコニコと大きな声で
水を得た魚のようになって
姿の見えなくなった
あなたは気づけば中心にいて
一つ一つの小さかった波紋の輪が
つながり大きな輪となり
そんな光景を目の当たりにした
陳さん
あなたがうらやましかった。


通訳としての仕事を求め
この国へ移住し
日本人の女性と婚姻を果たし
子を儲け家族とともに暮らしている
けれども男性への求人は見つからず
職を得ることができないでいる
そう言っては
あなたは嘆いた
小さな目の瞼を閉じ
太陽のようなまん丸い顔を曇らせ
沈黙となり。
ある日の短い休憩の時間
一人座りこみうなだれたままでいる
石のようにじっと動かないあなたの
背が僅かに震えているように見えた
僕は呼び掛けることができなかった。
ただあなたを見つめるだけだった。


陳さん
あなたは言った
日本人は優しい、
優しい人が多い、
それはとてもよいこと、
けれども主張をしない、
それではダメ!
中国では病気と思われる、
変人扱いされる、
もっと自分を主張したほうがいい、
これからますます大変になる…と。


あなたと別れ
月日が経ちしばらくして
僕の国のあちらこちらで
雨後の筍のように
あなたの母国へ
あなたの同胞へ
毅然と声を上げる人々が現れました。
あなたは
いつか僕に語ってくれた
会社を興し事業をしたいという
その夢を叶うべく
とっくに余所へと去ったでしょうか
それともまだ
風が強く吹き荒れる
この国のどこかで
慣れない作業に従事しながら
通訳の仕事を探しているでしょうか。


あなたが一番優しかった

文学極道

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