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作品 - 20151024_786_8377p

  • [佳]   - 蛾兆ボルカ  (2015-10)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  蛾兆ボルカ

庭の隅で年若いお母さんが
しゃがみこんで、おもちゃのシャベルで
一心に穴を掘っている
ときどき (自分は何をしているのだろう) と
首をかしげながら

後ろに張り付いた子どもが
背中越しに それを見ている
「お母さん、なにしてるの?」と、子どもが訊くと
「穴を掘っているのよ。」と、お母さんは答える

そうして30年が過ぎたのでした

―――― かつてそこは、穴でした
と、役人は私に言ったのでした

あなたの前のそのあたりは、かつてはひとつの穴だったのです。
わかりますか?すでに穴であることはやめてしまいましたが、
かつては穴だったのです。それは巨大な会議室の真ん中にある日
突然出現したような穴でしたし、学校の廊下の中央にあいたよう
な穴でもありました。
もはや全ては忘れられました。ごらんなさい、一見するとまるで
穴など無かったかのようではありませんか。
ここには久しく訪ねる人もなかったのですが、こうしてあなたに
見つめられて、穴は静かに眠るのだと思います。こうしてあなた
に触られて、穴は初めて眠るのだと思います。

「埋められたのは私でしょうか?それとも、あなたでしょうか?」と、
まだ年若くて少女みたいな、私のお母さんに
小さな子どもの私が、遠く叫ぶ

不意に私は
<私の判断は間違っていたのだろうか>
と、誰かにすがりついて訊きたい

しかしそこに既に穴はなく
平らな野原が続いていて
私は一人 野原に立っているのでした

庭の隅で
柄が緑で本体か赤い、プラスチックのおもちゃのシャベルで
穴を掘っている私の妻が
待っている家へと帰るために
私は振り返って歩き始める

帰ったら
「埋めるの?それとも掘り出すの?」
と、訊いてみようと思いながら

文学極道

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