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作品 - 20151020_707_8375p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夜伝わる音

  黒髪

聞こえる、闇の中、列車の音が強く。下り。いくつの駅があったのだっけ。
子供、学生、おばさん。
強いシュートを蹴る方法、風邪の養生は、余裕のない生活から抜け出すためには。
それらいろんな答え。
列車の後部にはたくさん物資を入れたコンテナが運ばれているだろう。
中身はなんなのであろうか。ごーんごーんと夢を運ぶかのような想像することをする。
音はすぐ遠ざかっていった。どこでも光を照らしながら音を立てるのだ。

猫の頭部の光る眼。
夜を越えたい、そうすれば諦めなくてすむだろう。
風がなる音に、不安と期待の入り混じった感情が喚起された。
夜に花びらは散っている、そっと地面に落ちていっている。
幾枚も幾枚も、ふあっと香りいっぱいに。天国のような。
それら人知れず落ちるものと、自分の境遇を重ね合わせ、
その時その場所なのだ、私が全精神を震わせても助けに行くべきなのは。
知らないことを知らないと言い、知っていることを知っていると言うことの、交わることない思考のラインを、
もしかしたら、その行為で、よぎることができ、レールの分岐を動かすかもしれない。
知らないことを知っていると言い、知っていることを知らないと言う。
本線から外れていくレールに、突き進むことだけが与えられる。
嘘と吝嗇が闇を生み、だれも望まないところへも道が続いていることが、とてもとても恥ずかしい。
涙が出そうになった。考えられない愚かさ。誰も救わない労働。
それは、おそらく、日常ならぬ道化の行為であるせいで、その結果も、はかばかしくはならないのである。
なぜそれを考えられるのか、例えば嘘は方便であることもある。しかし、独りぼっちでしゃべることはできず、
ただ慣性力のままに、間違った道を行っているだけだったのである。
散る花を救いたい、と、物事を知らない人間には感情的理由しか見つけられないのであって。
その想像が縁取られた場面となる。孤独な遊戯に答えを見つけようもなく、狂う、心が詰まり。
ぱあっと開いた笑顔が、すべてを許すように、明かりの中に見える。光に錯綜する幻視。
それは、原理的な……。
美しい蜘蛛の巣が張られるべき朝を迎えるために眠ろう。
明日は今日よりもよくなるはずだ。
賢い人間はきっと花の意味をなくすようなことはあるまい。
列車に乗りどこかへ行きたいのだ。
そして最後には、駅に降り立ち穏やかな風を感じられるところで自分の愚かさを恥じ、
またレールの先のほうの彼方へ、消えるところを確かめよう。
感情的な静けさの中で。
やっと得た平和の、閉ざされた空間の中で。
歪んだ夜にふさわしいヒキガエルの王となりたいと思いながら、田んぼの中で立ち尽くしているだろう。
心をかき乱す旋律で全てを燃えたたせる、指揮をとるために。
よこしまな王の偽に歪んだ心こそが開くことのない扉の鍵となるのだ。扉はまだここにある。
少年少女に刀で切りつけられてボロボロになった扉が、まだ誰も見たことがない世界とをつないでいる。
まぶしい光が生まれた予感がする。まだ暗いのであろうかと、扉をくぐった私は今まさに、
目を開き見ようとしている。
悪の全一者は、光線に包まれていなければならない。
レールの上しか行くことのできない不自由なものが、善の全一者となりえる。
服に付着していた花びらが一枚、ひらりと地面に落ちた。
どうやら地面はあるようだと、希望を強くさせられるような靴の下の感触に、希望の光が頭の中を渦巻き、
良き予感が体中を走った。どこまでも静まった夜と、なにがしかの気配のする朝とを、
繰り返してきた過去が、きっと形式を外れ、王冠の主にふさわしいカーニバルを与えられるかのような、
狂騒の熱の中へ、溶けていく。

文学極道

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