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作品 - 20151007_377_8358p

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移りゆくものたち

  


松林の間の小道
まん中に緑の下草が列になっているのは
日に何度かは車が通るから
道の脇にはネコジャラシやらヨモギやら
雑多なものたちが生い茂り
乾いた幹の間から収穫の終わった畑と
畑の向こうにある住宅地が見える
友達の家からのいつもの帰り道
ショウリョウバッタを脅かして
僕が歩くのは砂と小石と茶色い松葉の轍
小道は住宅地のアスファルトにさりげなく連結している
僕には入口であり出口なのだが
小高くなった住宅地から振り返ると
黒々と盛られた松林に
カラスが一羽二羽と舞い降りてゆく


やがて松林も、畑も、水色の空へ吸い込まれ、住宅とアスファルトが水が染みるように境界を伸ばしていった。
トンビは公園や行楽地で弁当を狩ることにしたらしい。
カラスは空で輪を描くトンビの真似して遊ぶのをやめ、夜の電線にぎっしり並んでとまり、コンビニの看板灯に油っぽい羽をぎらつかせている。
僕の住んでいた住宅地では子供の声を耳にすることが稀になり、時折、どこかの家で呼んだ救急車のサイレンや、窓から射し込む赤色灯に慣れてきた。
市街地では電柱が抜かれ、電線は地中に埋め込まれ始めている。美観や利便性のためでありカラスへの嫌がらせではない、と思うがあるいは。


低いところに水は流れる
草木も虫も動物も人も 
与えられた場でせめぎ合い
それぞれの速度と方法で
いつの間にやら遷移する
少しずつ 生き難さを分け合って

文学極道

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