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作品 - 20151003_257_8348p

  • [優]  #04 - 田中恭平  (2015-10)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


#04

  田中恭平

 
 
それは東洋的でない
甘い桃の匂いもせず
渇きと
病に苛まされてきた
西の町から
彼女は船の看板に立ち
哀しい話している間
船と
港とを
カモメは
アルコールのダルさと
薬の副作用とに
苦しんで
笑ったように
飛び交っていた


四月の十四番目の日に
私は生まれておらず
ペンを持つことはできなかったが
十月の一番目の日に
彼女の語ったこと
頭に入ってきたことを書きとめていけば
波へ彼女は乗馬したということ
黄金時代は予告され
黄金時代は予定されていた
神がサイコロを
カップからはじき落としてしまうことは
予告も予定もされていなかった


夜は星が栄えるよう漆黒を増し
そもそも ディザイア
 欲望 とは欠損語を冠した星のことであるが
この夜のお膳立ては
神の落としたサイコロが
悪い数字を出したということだった


海が鋭く船を刺せば刺すほど
人は
とおく在る星の栄光を
確信してしまったのだった
渇き
病気
それらが星の
つめたいあたたたさに癒えるころ
約束の刻は近かった


神は
ゲームのツケを払うために
人をさけながら清算しようと向かっていた
ライトはしかと船の進路の前方を照らしていた
少しおかしなことがおこっても
船は確実終わりへと向かっているので
問題なく滑っていた
ひとは笑いながらいろいろな船の娯楽を愉しみ
神は
金に代わる清算方法を考えざるを得なかった
警備員が神を見かけ驚いたが
警備員は毎晩夢で見ていた神は
神じゃなかった と
勝手に安心してしまったので
また船の中を
にこやか歩みはじめた
オーケストラの指揮棒が止まり
乗客は拍手した


病気と同じ名前の青年が
スケッチブックにデッサンしていると
船が傾斜していることに気づいた
青年は己の眼が傾斜しているのだろうと
勝手に安心してしまったので
デッサンを続けたが
彼のデッサン帖には女性のデッサンがない
これも「つづいていかない」という
警告だったかも知れない
そして神は
ゲームの失敗を金ではなく
ひとの命で清算するしかなくなった
青年は己の眼の傾斜が酷くなり過ぎ
ついに己の心象を書き留めていたが
おかまいなしの騒がしさに眼を開いた
青年は
後甲板から滑り海へ落ちた
後甲板に既に深さ3フィート冷たい水がたまっていた


煙突が倒れた
倒れた煙突の重さは乗客の足をくじきくだいた
船は沈んでいた
沈んだ分だけ漆黒の宇宙は広がった
各廊下の下のライトは安心していた
ライトには命がなかったからだ
しかし鈍く明滅していた
エンジンが爆発した
プロペラははじめるために回る筈だった
プロペラは回りつづけたが嘲っているようであった
過負荷をかけられるボイラー
船の弓が
割れてしまった
乗客はためらったり海に飛び込んだ
はやく
おそく
時間は
人間のものでなかった
神は
それを隠しきるに金が足らなかった


それは東洋的でない
甘い桃の匂いもせず
渇きと
病に苛まされてきた
西の町から
彼女は船の看板に立ち
哀しい話している間
船と
港とを
カモメは
アルコールのダルさと
薬の副作用とに
苦しんで
笑ったように
飛び交っていた


タイタニック号は沈んだが
青年のペンは浮いていた

 

文学極道

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