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作品 - 20150921_013_8321p

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Soine(株)

  ゼッケン

おれは夜、添い寝のバイトをしている
客は40後半から50代の男が多い
おれと同年代の男たちであり、女はめったにいない
たいてい出張先のビジネスホテルに呼ばれる
おれは部屋に入る前にパジャマに着替え、枕を抱えて扉を開ける
客には予約時にスタッフが電話で説明している
客は風呂に入り、あとは寝るだけの状態でおれを迎えねばならない
予約の時間ちょうどに部屋の鍵は外しておかねばならない
扉が開くとおれはお辞儀や挨拶はしない。自分の寝室に入るのに自己紹介をするやつはいないからだ
そして
おれは寝る
客はいくぶんためらう
おれは目を閉じたまま言う
あしたは雨だ
照明が消されるまでに5分から10分、あるいは消されない
おれの腸は月一回洗浄される
おれはヨーグルトを食い、肉を食わない
満月の頃、おれの腸は均一できめの細かい細菌叢で一面に覆われる
夏はなだらかに起伏して先はアルプスの稜線で途切れる牧草地に風が渡り、
低地より早く迎える秋には冬の備えとなる干し草がサイロいっぱいに積みあがっているだろう
外は雪で埋もれていても、サイロの中は干し草のひそやかな発酵で暖かく湿度がある

動物では死と呼ばれる回帰が サイロの中の眠りは穏やかで 不可視だ

糊の効いたベッドのシーツはおれの体臭を吸収しない
おれの寝息は規則正しく、しかし、さらに長い周期で刻々と変化していく
季節と星の運行がおれと見知らぬ客をひとつベッドの中で
眠らせていく
泣き出す客がたまにいる
おれは目を開けず
手を握ってくる客もいる
おれは握り返さない
おれの呼吸は健やかに伸び、体温はすこし下がる

朝にはなにもかも連続していない

文学極道

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