百日紅の花は寒に縮みつつ
その先 蕾を遺している
静かにするんだ──
先に服した薬が内側でそう告げた
硝子戸を開け、じっと寒を見つめる
茫洋とした視線へ
孑孑の
騒ぐ声が挿入され
目は
眼となって
百日紅の花の赤さを
正信する
否
眼が
目となって
百日紅の花の
神の
生成の
妙が知れると
私は陶器の
灰皿を、縁側に置き
煙草を嗜み
静かにするんだ──
を
舌で転がしてみる
この戦時下
パラパラと
舞い落ちるのが
百日紅の
花弁であって
中華人民共和国の降下爆弾
で
なくて良かった
一弁
一弁
灰皿に詰め
灰皿の灰と
花は
互い
形を失っていく
明日から米の
供給は終わり
煙草屋へ寄ったら
読売新聞しか
置いていなかった
家を引き払い
薬代に換えて
駅前ベンチで眠ろう
左派の私を
雇ってくれる
映画会社を捜そうとも
しかし
東京は灰燼か
郵便は止まった
最後の煙草に火を点けて
静かにするんだ──
しかし
百日紅の花は寒に縮みつつ
その先 蕾を遺している
たとえ
私のこの両目が
義眼であったとしても
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選出作品
作品 - 20150916_917_8315p
- [佳] #03 - 田中恭平 (2015-09)
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#03
田中恭平