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作品 - 20150901_490_8280p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


絶対納豆

  蛾兆ボルカ

吉野屋でチープなツマミを食べながら
僕は黒のホッピーを呑む

もともと隣にオンナノコが座る店は嫌いだし
無口なママの店は金がかかるものだから
立ち飲み屋が好きなんだけど

立ち飲み屋にすら
鬱陶しい常連客がいるもので
関東のやつらは酒の飲み方がわかっていない

僕は本当は、ロシアの立ち飲み屋でウォッカを呑みたい

僕の想像では、(だが)
ロシアではカウンター越しに
鱒缶詰の空き缶に入れたグラスが
タン!
と、置かれる

そして間髪入れず
角刈り金髪の粋なお姐さんが、
空き缶からカウンターに溢れるまで
アルコール80度のウォッカを
注いでくれる
注いでくれる
注いでくれる

もちろん色白でオッパイはデカイが
たぶん処女だ

僕は、彼女が
人生の始めから終わりまでのいつかに
『ウラー!』
と、叫ぶ声を聴かない
彼女が声もなく泣く悔し涙を見ない
その権利は僕にはない

僕はただ
彼女が注いだウォッカを一息に飲み干して
(もちろん鱒缶の中を先に干してからだが)
カウンターに
タン!
と、置いて
無関心な彼女の白い頬の微細な動きと
僕をチラリと見る眼差しとを見る
(そのときの彼女の青い目の青/いや、
よく見れば灰色なのか)

関東のやつらは
酒の飲み方が何もわかっていない


吉野屋の納豆はパックのまま80円で出てくるし
海苔は60円でパックのまま出てくるから
悪くない

カウンターの内側のお兄さんは
ロシアの労働者みたいに無口であり
無駄なことは言わないから
僕は『絶対納豆』について思考する
(非言語的に)

絶対納豆は
日常的な相対納豆ではないし
酒場における納豆のイメージでもない
納豆そのものであり
他のツマミや牛丼から独立して
単品でその存在を示す納豆だ
一粒が他の一粒から自由だから
期待通りの糸なんか引かない
(意図?なんちゃって)

美味しいかどうかとか
関係なく
吉野屋のカウンター上で
白くて四角い発泡スチロールのパックのまま
それは僕の前にあったのだ
(しかしながらもう食べてしまった)

僕は本当は
ロシアの立ち飲み屋に行って
男の二三人もナイフでぶっ殺してそうな
/に見えてウブで可愛い
角刈り金髪のお姐さんが注いだ
ウォッカを呑みたいのだが
(その白い首筋の細い蛇の刺青)

とりあえず絶対納豆は食べたことだし、
今日は悪くない夜だな、と思いながら
1020円払い

店を出て叫ぶ
8月下旬の雨のなかで
非言語的に/音もなく
密かに



ウラー!

文学極道

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