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作品 - 20150831_431_8274p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


喪失―失われるとき    

  前田ふむふむ

見送るものは 誰もいない
錆びていく確かな場所を示す
冬景色の世界地図を
燃やしている過去たちが
東の彼方から孤独に手を振る
知らぬ振りをする眼は 遥か反対を伺って
不毛な距離をあらわさない
すすり泣く静寂のさざなみが
過ぎていく春の揺らぎのなかを
固まる 真昼の荒野で瞬いていく

むかえるものは 誰もいない
絶え間なく律動する 縮まりいく そして絶えていき
砂粒へと綻びる 
帰りのない飾り立てた一本の直線の道を
過ぎていく人々のざわめきで塗された気配と
白い木の葉が落ちる
透明な街路樹に差す光線との
空隙のなかを
止め処なく走り抜ける暗闇の青さが
冷たく切り裂いていく

わたしが 決して語ることの無い
この失っていく砂漠のような時間のなかを
語り続けている 繋いでいる そして繋がっている
汚水と蒸留水の混沌で満ち溢れた
思惟の海の岬のふところで
折れた翼を精一杯に張って 飛び立つ海鳥たちの
鮮烈な讃歌が聴こえる

あの 霞みゆく緑の月を 打ち落とせ
あの 溶け出した黒い太陽を 打ち落とせ

金切り声を上げたばかりの海鳥が
見えない時間のなかを 朦朧としながら
喪失した痛みを数えて直立しているわたしの背中を
無造作に撫ぜていく
ああ わたしはひとりで 吹き荒ぶ断崖で
孤独に佇んでいたという現実が
鋭い尖塔のように
青々とした空に突き刺さっている
わたしは溢れ出す灰色の海で号哭することだけが
許されている
曳航される廃船の姿を晒して
今 世界が悲しく死にいく夜を歩いている

文学極道

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