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作品 - 20150818_190_8258p

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夢の所有者

  あやめの花

まどろみをつたう繊細な低音
気の遠くなるような響きがふくすうの水辺のイメージをつくりだして
下降するように浮游する夢は裸足のまま水辺をめざす


自転車を漕いで商店街をわたる、そんな空耳をくりかえし聞いていた、聴覚がひろがり、あたまが空間と調和するゆうぐれ、調和しないあしもとのもっとも鈍い部分に指をさしいれて、めくりあげてみる、果実肉のかわをはぐように、原形などかえりみずめくる、(めくるめくかんらく、あらわになった裏面はめの高さよりも低いところで波うっている、規則的に、からだは規則的に破損するけれど、きれいな、水辺の草花がおりなす綿密な夢にあざむかれて、住宅地のまんまんなか、木造アパートメントの一室でひとり、瞳孔からあふれんばかりの光彩をこぼす


(ひたされている、半分に割れたからだが、みなもから垂直に伸びる茎を掴んでいた)
オブラートをかぶせかろうじて温もりを維持してる、衣服をまとうための体積は肌色の、なつかしい受話器を掴んで、読点をうつようにまるで脈絡のないことばをくちにする(楕円、手鏡、折り紙細工)水脈をまさぐるために、なんどもとなえて乾いた舌は、人影のない水辺のようだった、なみまに墜ちる鳥の影、風でさざめく草花が肌をすべり抵抗する、もう、それしか聞こえない《わたし》わたしはぬかるむ部屋に足跡をつけながら、囁くような、カーテンの衣擦れの、繰言を聞いていた


(水辺に、降りそぼる(風の、透きとおる(まどろみは、はだか

文学極道

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