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作品 - 20150720_435_8198p

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骨メール。

  赤青黄

 還暦を迎える前になくなった祖父の頭の上に、僕の折蛙がのっていた。焼かれた祖父は骨になった。祖父の鎖骨を掴んで骨壷にいれたことまでは覚えているが、それ以降のことは何も覚えていない。それでも偶に、覚えていなかったことを数分間だけ思い出すときがあった。しかし、数分後にまた忘れた。今度は思い出したことを忘れた、という言葉だけ覚えている。そういうものが積み重なって僕は物忘れのヒドイニンゲンだ、ということだけが頭に積み重なっていって、僕はそう、こうした円環の中に生きているのだ!ということが分かった途端に、電車が駅について、そう、分かったことがまたわからなくなって、ずれていくことをまた積み重ねていった。オヤジ達が祖父の骨を繋げて遊んでいるのを僕は遠くでみていた。オヤジ達は、あ、こことここの骨が繋がった。そう、たしかこうこうすると、ほら、鎖骨ってこうつながってるんですよ。という始まりがあって、気が付けば夕方になっていた。僕は明日の朝食を買うために、町のパン屋に入った。ちりちりちり、とお店のベルがるるるるるるってなると、縮れ毛の顎鬚をした主人がちらりとこっちを見てきて、もう閉めるから出てってくれ、みたいな顔をしたので、僕はじゃぁ、あす、朝五時にきます、みたいな顔をしてチョココロネを一つ掴んでレジに持っていった。鼻で笑われたついでに四月、という始まりがあって、町には地図を片手に持った若者が大勢いた。ある人は自転車に跨って霊園のある丘から、下った先にある大きな港まで巡り、あるものは事前に調べた情報を頼りに決められた順列の組み合わせで路地を歩いた。どちらかというと、僕は友達の女の子と本を読んでいた。部屋の中は何もなかった。安っぽい本を乱暴に読んでいると、調度品という言葉がヤケに目に付いた。大体そう、部屋に置いてあるものは調度品。これで片付ければいいそうなので、調度買い物にいくことにした。出たついでに散歩をすることにした。僕のレトリックはやはり調度品くらいの精度しかないから、見渡せる景色も大体調度品で済ませられるから、僕は女の子と手をつないでいれば良かった。「それでいいの?」「いいんだ。」。」。」みたいな会話を繰り返している内に雨が降ってきた。僕と女の子の間だけ晴れていたとか、言ってみたいけど、ウソだもんね。僕たちは砂浜まで行くと、ただひたすらと堤防に乗って北へ北へと歩いた。波打ち際には等間隔で打ち上げられた魚が死んでいて、その隙間を縫うように男が埋まっていて女がそれを掘り起こし、子供たちがヘドロになった父の内臓をお城にして遊んでいた。お城はやっぱりもってかれて、ただ、骨だけが残った。強い雨だった。骨はまるで死んだ珊瑚礁みたいに、パチンと薪のはぜた音がした。るるるるる。僕は電話にでようとした。それはメールだった、もう少しでラインになる。

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