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作品 - 20150716_401_8193p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


連作・『星の王子さま』のために

  蛾兆ボルカ

・客席消灯

・ブザー

・開幕



【タイトル/薔薇と蛇】

【クレジット】

原作『花と蛇/団鬼六』

主演女優『薔薇』

主演男優『王子さま』


(出演・配役)

・へび『エデンの蛇』

・うわばみ『ヤマタノオロチ』

・飛行士『飛行鬼(ひこおに)』

・呑兵衛『高倉健』

・地理学者『ミラ狂美』

・星の点灯夫『O嬢』

・地上の点灯夫『沖縄戦姫百合部隊の皆様』

・王様『白鵬』

・実業家『ゴジラ』

・バオバブ『にょろにょろ』

・坂本龍馬『Mr.T.』


撮影協力

『エデン@天界』

『幻想四次元銀河鉄道』

『表千家』

『さそり座』

『目黒エンペラー』

『チェルノブイリ原子力発電所』

『古代エジプト』


・エキストラ『タイタニック乗客の皆様』

・主題歌演奏『星』

・友情出演『北きつね』




【シーンズ】

(1)

次に王子さまが訪れた星では
ゴジラが星を数えていました

丘の上に座って
その小さな目で
夕陽に照らされながら

空を見上げて




(2)

次に王子さまが訪れた星では
薔薇がお酒を呑んでいました

「なぜお酒なんか呑むの?」
と、王子さまは訊きました。

「恥ずかしいからよ。」
と、薔薇は答えました。

薔薇の頬が、少し赤くなりました。



【主題歌/『少年』】

少年はいつも、
どこかへと去る
そんな習性だし
それが宿命

少年はうっかり、
四次元世界を旅行する
時間ってやつを
まだ知らないからさ

命を燃やして
戦えたらいいね
命を賭けて
愛せたらいいね

逆さになって
星に落ちていくとき
僕たち笑えたら
いいよね




【シーンズ】

(3)

「チャーリー、お前はガッツがある。俺はそういうお前が好きだ。もし辛いことがあったら俺に言え。俺たちは友達だ。」

と、砂漠のパン屋さんの仕事場で
飛行士は言った
一緒にパンをこねながら

でも飛行士には、チャーリーを星まで乗せていく船はないから、

「そんなに遠くから来たわけじゃないんだね。」

と、チャーリーに言われても、
返事はできない

それでも飛行士には飛行士の仕事があるのだ

砂漠に墜ちた飛行機を直すという
大事な仕事が


マーニー先生はヘビみたいだ
アルジャーノンに知恵の実を食べさせたけど
だからって偉いわけじゃないから

チャーリーは自分で町を出ていく
福祉作業所で、勉強しながら、
仕事をするために

みんなを悲しませないために

そこで友達をつくるために

「チャーリーお前は、勇気があるなあ!」

と、飛行士は泣いた

そして裏庭の
アルジャーノンのお墓に
薔薇の花束を捧げた




【第2主題歌/『ヘビの言葉』】

ヘビが与えるのは、知恵
知恵に耐えるのは、勇気
勇気を産み出すのは、愛

砂漠のヘビは金色の指輪
指輪の比喩は約束の証し
証しの言葉は死神の呟き

ヤマタを殺した英雄は
酒を呑ませて騙し討ち
猿田と咲耶は愛し合い
楽を奏でてダンスする

言葉は

砂漠の砂

その下に隠す

涙の星を見ぬ者よ

汝はただ、ヘビの餌食



砂漠が私に風を送る
熱風が私に真実を見せる
砂漠のヘビが足を登り
私の喉に巻き付いて締める

ヘビよ、ヘビよ、懐かしきヘビよ
君の言葉を聞かせておくれ
私が愛を見失わないように
私がエロスに見放されないように

たかだか神に
見放されることを畏れて

たかだか命を
喪うことを恐れて



【シーンズ】

(4)

その次に王子さまが訪れたのは北海道でした。

カラン、カラン・・・、と小さな音を立てて入ってきた王子さまは、
カウンターで一人で呑んでいた健さんの横に座りました。

ずいぶん寒いね。

と、王子さまは言いました。

北海道だからね。

と、マスターが暗い声で答えました。

王子さまは横を向きました。
健さんも王子さまを見ました。
二人の目が合いました。

ねえ、薔薇のトゲってどう思う?
ひつじには効かないかなあ。

と、王子さまは訊きました。

健さんは何も答えませんでした。

二人はカウンターに向き直りました。

僕、わかってなかったんだ。薔薇のこと。薔薇の気持ちも。
僕は薔薇の言葉なんか聞いちゃいけなかったんだよ。
薔薇が何をするかをちゃんと見なきゃいけなかったんだ。

だって僕は薔薇がいてくれて、嬉しかったんだもの。

と、王子さまは言いました。


薔薇ってのは弱いもんだ。綺麗だけどな。だから守ってやらなきゃいけないんだ。

と、健さんは言いました。


王子さまはにっこり笑って言いました。

そうだね。僕、あんまり小さかったから、よくわからなかったんだ。


大事なのは言葉じゃない。

と、健さんは言いました。

そうだね。

と、王子さまは言いました。


吹雪が止んで、外は満天の星空でした。


帰れるのか?

と、健さんが訊きました。

帰るよ。薔薇が待ってるから。
・・君はいかないの?

と、王子さまは訊きました。


俺はいかなくていいんだよ。

と、健さんは言いました。




【挿入歌『プレゼント』】

君に、宇宙を

一個、あげる

僕が、在ることの事実と

僕の、知ることのすべてを

僕の、ささやかなポエムってゆう

紙と、リボンで

僕の、やり方でラッピングして



【シーンズ】

(5)

最後に王子さまが訪れたのはSMバーでした。

その地下室の鉄の扉を押しあけて入ってきた王子さまを見て、薔薇は、

やっと来たわね。

と、言いました。

王子さまは何も返事をしないで、
カウンターの高椅子に座る薔薇の足許にきて、床に正座しました。

カウンターの向こう側(王子さまから見ると壁の向こう側ですね)からマダムは、

何よ。あんたたち知り合いだったの?(((笑)))
で、お前、何か呑むの?

と、王子さまに訊きました。


王子さまは、

オーガズム、をお願いします。

と、注文しました。


薔薇は、

私とママにはドライ・マティーニをお願いね。

と、言いました。

そして二人は黙りました。


やがてマダムが、

はい。どうぞ。

といって、自分と薔薇のマティーニをテーブルに置きました。

またしばらくしてマダムは、細長いグラスに注がれた、白濁したカクテルを薔薇に渡しました。


薔薇は細い指でグラスを握るように受け取って、その泡を真っ赤な口紅で飾った口でひとくち啜りました。

次に、自分のドライ・マティーニをひとくち含んで、王子さまのカクテルに注ぎ加えました。


はい。あなたのオーガズムよ。
あなた向きに、ドライ・オーガズムにしてあげたけど。

といって、足許に正座した王子さまに差し下ろしました。

王子さまは頭上に両手を挙げて、それを受け取りました。


乾杯ね。

と、マダムは言いました。

薔薇とマダムはグラスをうち合わせてひとくち飲みました。


薔薇は、カウンター席に座って、マダムのほうを向いたまま、

お飲みなさい。

と、王子さまに言いました。


このひと変なお客様でね。
常連さんなんだけど、女性とお話しないでいつも一人で呑んで帰るの。
きっとあなたを待ってたんだわ。

と、マダムは言いました。


三人とも黙りました。


マダムはマティーニを飲み干すと、別の女性客と話をし始めました。

その女性客の足許には、坂本龍馬が端正に背筋を伸ばして正座して、女性の足を嬉しそうに見上げながら、何か冗談を言っていました。


わたしのところに来るまでこんなにかかるなんて、
あなたってほんとに、なんてノロマなの。
・・・聴かせて。どこに寄り道してたのよ。

と、カウンターを向いたまま、薔薇は王子さまに言いました。


薔薇の足を見ながら、王子さまは長い物語りを語り始めました。


王子さまには足しか見えませんでしたから、カウンターに肘をついた薔薇の涙は見えませんでした。

涙の国って不思議ですね。



FIN



・・・・・・・・・・
【エンドロール】

【タイトル】
・本作品は架空の映画についての詩作品であり、小説として実在する『花と蛇』とは関係ありません。

・本作品には、実在する『花と蛇』からの引用は一切ありません。


【主題歌、挿入歌】
・本作品に引用された楽曲は、実在しません。


【シーンズ】
(脚註/引用元)

(2)

『星の王子さま/サン・テグジュベリ』より

「どうしてお酒なんか呑むの?」
と、王子さまはききました。
「恥ずかしいからさ。」


(3)

ダニエル・キース『アルジャーノンに花束を』より

「チャーリー、お前は勇気があるなあ。もし何か辛いことがあったら、お前には友達がいるんだってことを覚えといてくれ。」

「ついしん。どーかついでがあったらうらにわのアルジャーノンの おはかに花束をそなえてやてください。」


(4)

「星の王子さま」より

「ぼくはばらの言葉なんか聞いちゃいけなかったんだよ。
ばらがすることを見なきゃいけなかったんだ。」

「ぼく、あんまり小さかったから、よくわからなかったんだ。」

「かんじんなことは、目に見えないんだよ。」

「涙の国って不思議なところですね」



高倉健主演『幸福の黄色いハンカチ』より

「おなごちゅうのは弱いもんなんじゃ
咲いた花のごと、弱いもんなんじゃ
男が守ってやらないけん
大事にしちゃらんといけん」



※本作品は実在しないフィクションについての詩作品です。

文学極道

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