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作品 - 20150702_084_8169p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


闇のノエマ

  かとり

野垂れ死ね
そう言い放ったあと
まっすぐに覗きあった
あなたは出ていった

夕闇に鳥の影が滑り
テーブルの上にはカード立て
肖像画にマジックインキで
悪戯書きがなされている

残された煙草がくゆる
この火は紀元前の野に焚かれ
天体が凍てつく夜にも
絶えず木切れが投げ込まれている

/

運び出される幻想曲 
泥の匂が運びこまれると
風に乗って散り散りになりながら
虫たちの声の隙間で
それぞれの手が
おずおずと闇合に浸され
指先の溶けて滴る 
音がする
 
まだ
何も
残らなくてよかった
空が息を落とすと
移動しているかたつむり
あなたは稜線となって
とっぷりと暮れなずむ

/

長く影を拾う
壁紙に刺さった画鋲にまつわるエピックだ
天井の隅まで
熱く火照った手足は伸び
視られている
その寂寥がつぎつぎ
飛び出して駆けてゆくと
影の踊る
流星の時間
遠く
描線のひとつひとつに
柱が立つ

/

塔の
冷たさ 静かに
そう
演奏する
低い 声が
半分開いた
滑り出し窓に
吸い込まれ
逆巻き
うねり
落ち

浸透する
溜の
乾燥する
明るさに
どこにもいきたくない
言葉が言葉を変えてゆく

/

沈黙が
拍子を打ってあなたは眠りにつく
眠りが
拍子を打ってあなたたちを刻む

あなたは誰で
そして何故
寝がえって枕に聞くと
身体は冷えきっているというのに
夢は毋になる

クラスで11人目のスターリンへ
あなたが誤って埋められた首だとしても
髭も髑髏も
黒々としている

スクリーンを手に口をつぐんだまま
明けていく夜がいくつ並んでも
始めから永遠にあなたはかわいい

/

愛をこめて
震える顔が
こぼれ
落ちて
着床する
腐葉土の硬さに
落ち込む低さ
世界は放射状
泡だった緑の肌に
集まった
誰のものだかしれない
涙の膜に
包み込まれた
ことを知らない
視界の端っこで
光が茹だる

/

ここから
蒸発する目鼻は
半減し
半減して
繰り上がる
横顔を同期する

かつてあなたを
目にしたことがありました
めくばせは
昼も夜も 零さないように
広く高くと 底面積を持ち上げて
そのまま遠く
重なった
どきどきとする 鼓動の在処が
関係のない 別のお話

顔たちは 石の
根を伸ばし 
葉を増やして
やがて色づくことでしょう

/

ざわめく 文法のほとり
木々が揺れ 砂利が動く
こわばった苔が
胞子を放ち
旋回する鳥が
滑り去って見えなくなる
降り はじめる気配に
集まったのか 集められたのか
細波に蛙が飛び込む

/

不思議な指
ここにない指を数えて

一本
一本と
数えるたびに

一つづつ
新しく
腕を
伸ばして

触れようとする
そのようにして
造形している

/

髪に
頬に
額に
耳に
触れ

横顔を 
はたく

首を
絞める

よろしければ共に 首を
絞め合ってみてください

/

あなたへ
あなたは
石になりました

おおきな 蛇の顔と
眼を合わせたなら石化する
そういう決まりだったから

石になった あなたは もう ここから 抜け出すことはできない
この 根本から 間違えた 物語のなかに
もしも 私が存在するのだとしたら

/

重なるほどに
関係のない
重なりを
束ねて
約束で
覆う
弓なりの夜

海岸が
追いかけてくるから
さよならを言うことができる

/

いちばん骨が
白くなる時間に
待っててって
苦しそうにつぶやいて
もういちど眠りにつく
21世紀の唇に
雨蛙はとまり
濡れ膨れた瞼で見あげている

ピアノの屋根へ
鳴声は吊られ
透明な
足跡を残して 
野に
貼付いたまま
ゆっくりと傾いていく

文学極道

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