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作品 - 20150613_626_8125p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


二島由紀夫のポテンシャル

  泥棒

四島由紀夫と五島由紀夫が殴り合う午後。
陽射しだけが美しい影をつくる午後。
草原で殴り合う2人の、
その影を見る限りはバレエのよう。
七島由紀夫は自宅の庭で筋トレをするのが日課。
丁寧に刈られた芝生の上に寝転んで陽を浴びる猫。
ホースで水をまき
その猫に虹を見せてやるのも日課。
三島だけが
どこにもいない。
六島由紀夫は
ネットで取り寄せた数種類の茶葉を独自にブレンド。
夕暮れ。その香り。
こだわりの紅茶で
仮面をつけた九島由紀夫と
ティータイムを楽しみながら
三島の話しに花を咲かせる。
少年少女が
マクドナルドを爆破する物語を書いてみようと思うんだ
いつかね。
そう言い残して
九島由紀夫は、思わせぶりに、
ゆっくり、消えた。
痛みを感じなさい、
肉体を傷つけ合うことでしか分かち合えない。
亡霊たち。
肉体のない三島の亡霊たち。
腹を、かっさばく、痛み。
早朝の新宿駅。
八島由紀夫が白線の内側で
文庫本を読みながら一島由紀夫を待っている頃
二島由紀夫が憂国で
鮮やかなロングシュートを決める。
そのポテンシャルの高さ。
二島が三島になる日も近い。
初夏の風。
枝の先端に着地する鳥。
その鳥のまばたき。
待ち合わせの予定を忘れて金閣寺。
存在しない左手首を、
ピッて、切る、空気の読めない、
一島由紀夫。
それらを
十島由紀夫がリリカルに切り取ってゆく現代。
肉体はないのに見える影。
靖国通り。
その印象だけをコミカルに描写する
技巧派の七島由紀夫。
誰の声にも耳をかさない。
そのメンタルの強さ。
描写の弱さ。
春の雪が全身を貫通する。
その見えない肉体美。

文学極道

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