寒い夜である
ベッドに横になる眼の前を
電気ストーブが燃えている
それは
しずかに 明るさを 放射して
わたしの胸のおくに浸みわたっている
そこには 何も隔てない
穏やかな 共存がある
けれども
調和された 穏やかさは いずれ飽きてくる
思考は 常に外部へ
弱く点る頭上の
蛍光灯のひかりと 電気ストーブが
交錯して
電気ストーブの裏に 小さな黒い影をつくる
そして
わたしは みえていない影のある
うら側を思考している
そこから流れてくる意識は
電気ストーブ全体を覆い
わたしの全身を埋め尽くそうとしているが
そこには 決して届きそうにない
距離がうまれる
だが
影のある電気ストーブに距離を感じるのは
視線という
二点を結ぶ 空間をもった
線分があるからではない
どこまでも対象と溶け合おうとして
叶えられない
速度があるのだ
しずかさのほかに
影は なにも応答することはない
答えを捜しながら
わたしが 何かを求めているうちは
めらめらと燃えている
電気ストーブと影は
つねに わたしの速度に
押しつぶされている
しかし 夜も更けて
わたしは 眠くなり
意識することを 諦めて
まどろみに耽るとき
わたしは速度を失い
夜の闇と共存し
距離だけを持った
一度 記憶された
電気ストーブは
同様に 夜の眼に包まれ
ひとり
いつまでも 影をつくり
赤々として
完成された 自由を獲得する
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選出作品
作品 - 20150529_336_8096p
- [優] 速度 - 前田ふむふむ (2015-05)
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前田ふむふむ