#目次

最新情報


2015年05月分

月間優良作品 (投稿日時順)

次点佳作 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


コピー。

  田中宏輔



 手をコピーする。左手をコピーして、右手を
コピーする。腕をコピーする。左腕をコピーし
て、右腕をコピーする。顔をコピーする。光を
見ないように、目をつむってコピーする。肩と
胸をコピーする。服を着たまま、コピー機の上
に胸をのせてスイッチを入れる。お腹をコピー
する。コピー機の上にのっかってスイッチを入
れる。小便する犬のように、脚を上げてコピー
する。左脚をコピーして、右脚をコピーする。
足をコピーする。コピー機の前で逆立ちして、
足の甲をコピーする。コピー機の上に片足をの
せて、もう片足で蓋をしてスイッチを入れる。
そしてそれらをセロテープで貼りつける。ペラ
ペラとした白黒のぼく。頭のところをもって垂
らしてみる。目をつむったぼくの顔。手をはな
すと、ヘロヘロヘローとへたり込む。もう一度
手にもって垂らしてみる。でも、やっぱりペラ
ペラとした白黒のぼく。窓を開けて、ぼくは、
ぼくのコピーを風に飛ばしてやった。
 目を開けると、ぼくは風にのって飛んでた。
とっても軽くって、ヒラヒラヒラーと飛んでっ
た。高層ビルの透き間をぬけて、ぼくは飛んで
った。どんどん遠くに飛んでゆく。風にのって
どんどん遠くに飛んでゆく。
 ああ、ぼくはどこまで飛んでゆくんだろう。


体液

  ねむのき

意地悪な学校に
行きたくない、いつもの朝に
寝ぐせ頭は、重たく軋み
冷たい蛇口
をひねると
胸がつぶれて
涙があふれた
歯みがきができなくて
ぼくは困って
よけい悲しい

ぼくの涙は
制服をぬらし
洗面器を、いっぱいにして
迷い込んだ一匹のクラゲ
がふわふわと
泳いでいる
歯ブラシとコップを、持ったまま
ぼくは
困りはてて泣いたまま
意地悪な学校に
行かなければ、ならない朝に
たくさんの、クラゲたちが
鏡の中を、漂っている


連祷:farewell

  どしゃぶり

1
「わたしはここにいる」そういい残して、おまえがコンテンポラリーなコンテンツになっていく。おれはおまえを美しいと思えず、さりとて勃起もできないからコンドームもつけられやしない。おまえは身体を分解していってレイヤーに剥離していって、おれはそれを見て何を思えばいいのか。さよなら。おまえが地表に燃え広がっていくさまをおれは見送る。さよなら。おれの身体はおまえほどばらばらになりやしない(なんでだ)。降り注ぐ流星雨をのみこむ冷たいおまえ。さよなら。

2
おれは祈る。おれはおまえが巧妙にデザインされコーディングされたゆらめきに過ぎないと知っていたし、つまるところ、おまえには死んでほしい。だが祈らずにはいられない。おまえのしあわせを。性欲はせせこましく、舐めては吐き出し、手の中で空想になったおまえの最後の骨。が転がっていくその指先の向こうにこそしおからい原野。に佇む人。はおれの肩に手を置き、ただ頷いた。瀑布のように。許された。御御堂に満ちる蜂蜜は涙だった。おれの。

3
針葉樹林から逆巻くおまえのさみしさが幾つものたて看板をなぎ倒して人々の鼻腔を砂漠化する。ぷちぷちとした食感と形容されるほど解されたおまえもおまえもおまえも省みられない誰からも。「何でも質問してください。一粍だけでもこの都市から浮き上がるために。」ハイキーに焼き付けられたおまえは陰毛の上半分を剃り上げて叫ぶ。シアンの残照と送電線が交差する空に向かって叫ぶ。落下しながら。落花。しながら。その先は男たちと男たちと男たちが浸透した性欲の海。

4
男が打ち寄せる渚。早朝、性欲が砂をさらう波打ち際。おれは待つ。待った。待った後。おまえは砂洲に降り立つ。おれはおまえの目の前で、おまえの彫像を建ててやる。おまえという偶発性に胚胎されたおまえ、おまえが胚胎する偶発性というおまえの像を。おれとおまえ、二本の細い線分に記された稗史の結び目に足を取られて、おまえは砂の上にばったりと倒れ込み、砂だらけの顔をあげるだろう。そして、おれはもう一度おまえにいう。おはよう。


火だるまパンツ事件。

  田中宏輔



 あれは五年前、ぼくがまだ大学院の二年生のときのことでした。実験室で、クロレート電解のサンプリングをして
いたときのことでした。共同実験者と二人で、三十時間の追跡実験をしておりました。途中一度でもサンプリングに
失敗すれば、また最初から実験し直さなければならないはめになるのでした。目の前におります共同実験者の目の下
の隈を見ますれば、けっして失敗などするわけにはまいりません。ところが、最後のサンプリングで、ピペットを使
って電解溶液を採取しはじめたときに、急に便意を催したのでした。ぼくは採取した溶液を希釈して、すぐにUVス
ペクトルにかけなければなりません。相棒は相棒で、採取した溶液を過マンガン酸カリウム水溶液で酸化還元滴定し
なければならなかったのです。ぼくのことを手助けすることなどできませんでした。スペクトルを測定している間、
ぼくの身体は強烈な便意にずっと震えておりました。そうして、やっと測定し終えたときには、すこうし、汁気のも
のが、肛門の襞に滲み出しておりました。セルをしまうと、ぼくはすぐにトイレのなかに駆け込みました。白衣を思
いっ切りまくり上げ、ズボンとパンツをいっしょくたにずり下げると、ブッ、ブッ、ブリッ、ブリッ、ブッスーン、
ブスッ、ブスッと、脱糞しました。ところが、脂汗を白衣の袖で拭きふき、ほっと溜め息ををついた後、ぼくは気が
ついたのです。ズボンといっしょにすり下ろしていたはずのパンツが、どうしたわけか、お尻に半分引っかかってい
たのです。案の定、パンツは、うんこまみれになっていました。そうして、しばらくの間、脱ぐに脱げずに困り果て
ていましたところ、突然、はたと思いついたのです。白衣のポケットのなかにある百円ライターを使って、パンツの
横を焼き切ってはずすことを。うまい考えだと思いました。ぼくは、さっそくそれを実行に移しました。まず、左横
の部分に火をつけて、うまく焼き切りました。そして、つぎに右横の部分を引っ張って左手で火をつけましたときに、
突然、ガッと扉が開いたのです。とんまなことに、ぼくは、鍵をかけずに大便していたのです。相棒の叫び声にびっ
くりしたぼくの手元が狂って、パンツが火だるまになりました。おそらく、有機溶媒か何かが滲み込んでいたのでし
ょう。パンツは勢いよく燃え上がりました。相棒は、そのときのことを、翌朝一番に、研究室のみんなに話しました。
それが、「火だるまパンツ事件。」の顛末です。一躍、噂の人となりました。あれから、ずいぶんと経ちますのに、
研究室では、いまだに話の種になっているのだそうです。
 そして、ぼくは、いままた、パンツをすり下ろし損ねたのです。困っています。どうしようか、迷っているのです。
ポケットのなかの百円ライターを使ったものかどうかを。


来週の女子会メンバーリスト

  泥棒

昭和

平成5年生まれの最年少メンバー。しかしかなり年上の兄がいるせいか昭和ネタの話しが多い。なので、ついたあだ名が昭和。お喋りでムードメーカーであるが披露するギャグは昭和のギャグ。故にオヤジっぽい。好きな芸人は兄の影響により加藤茶である。最近のお笑いにはまるで興味がなく、むしろ嫌っている。漫画やイラストが趣味であるため休日はほとんど家にいる。黙っていれば可愛いのでメンバー中、1番モテる。

爆死

私のあだ名です。昭和ちゃんの2コ上です。映画やドラマや漫画の爆破シーンが好きであり、口癖が(もう死んでやる!であるため二つを合わせて爆死になりました。結構気に入ってます。会社のみんなには内緒で詩を書いたりしています。ちなみに詩を書いている人たちからは(あんたの書いてるのは詩じゃないよ、とたまに言われます。と言うか最近はもうほとんど毎回言われてます。プライベートでも仲の良い昭和ちゃんからはバクちゃんと呼ばれてます。ちなみにBカップです。昭和ちゃんは、たぶんDはあります。

捻挫

やたらスピリチュアルな世界の話しをするため最初のあだ名は宇宙だったのですが、酔うと必ず学生時代にキャプテンまで務めていたバレーボール部の試合でウォーミングアップをしている時に捻挫をして大事な試合に出れなかった話しばかりを何回もするので捻挫というあだ名に変わりました。177cmある高身長がコンプレックスのようです。ちなみに声もでかい。私の勤めている会社の上司。みんな捻挫姉さんと呼んでます。普段は優しくて頼れる捻挫姉さんですが年齢の話をすると急に不機嫌になりますので、そこは要注意です。

魔法

私と同期入社した、ほんわか系です。メンバーの中で唯一、いわゆる女の子っぽいです。しかし見た目とは裏腹に実はかなりの酒豪なので酒女って呼んでましたが本人が絶対に嫌だと言うので、天然なところもあるし世界と書いてワールドはどうかとすすめましたが、それも本人が気に入らないため、すったもんだの結果あだ名は魔法になりました。すこし、ぽっちゃりしています。なかなかのアニメ声です。

以上、
この四名で来週女子会やります。
そして来月は
このメンバーで合コンをしたいです。
男子四名募集中です。
メンバーリストを送って下さい。

ちなみに補欠メンバーで元ヤンキーの新築という子もいます。お父さんが大工をやっている子なので新築と呼んでます。美人です。呼んだら来ると思いますが新築と魔法があまり仲良くないので新築を呼ぶなら魔法は呼びません。こんな感じですがよろしくお願いします。メンバー全員、彼氏募集中ですので。^_^


山林の詩五篇

  山人

「山林へ」
いつものように作業の準備をし山に入る
ふしだらに刈られた草が山道に寝そべり
そこをあわてて蟷螂がのそのそと逃げてゆく
鎌があるからすばしこくない蟷螂は
俺たちと同じだ
三K仕事に文句も言わず
ガタピシときしむ骨におもいの鉄線を補強して
なけなしの体をつれて山林へ入る
蟷螂のような巨大な刃の付いたカッターを背負い
俺たちは木を刈る草を刈る
山の肌は俺たちにはだけられ
少しだけ身じろいだが
久々の日光に少し心地よげだ
親方の合図で一服だ
煮えた腹に水をくれてやれ
体中の口が水を浴びている
どれおまいらにも
青く澄んだ混合油を口に流し込んでやる
打ちのめされた糞のような現実を叩き切る刃も研いでやろう
たまには涼風も体を脇を通ってゆく



「夏」
開かずの扉があるという。日照が熱い、暗いもがきと汗が内臓から湧き出し、無造作に衣服を濡らす。すでに自らが獣となって草を刈り分け、怒涛の進撃を続けている。名もない歌がふと流れる、何の歌だ?知る由もない、歌などどこからやってきたのだ。風は佇んでいて何も動いていない。見ず知らずの感情が脳内に浮遊し、まるで荒唐無稽の羽をつけながら舞っている。
古代から開けることのなかったかのような陰鬱としたその暗闇を少しづつ抉じ開ける。ふと照らされた光に暴露された青の暗闇は、現実にさらされ始めた。突然、暗闇はすでに暗闇などではなくなり、現実のものとして現れはじめた。いささかも微動だにせず渾身の夏の陽光に照らされている。「すべて、その暗闇に差し出せば良いのだよ」、と声がする。手のひらの臓物を掲げて静かに目を閉じて、自らをささげて、暗黒の中に魑魅魍魎としたその内奥へ、入り込んでしまおう。魔界からの伝達が来ないうちに。それにしても今年は暑いな。



「山林に残された風」
山林は、祭りの後のように、しなだれた風景をさらしている。
命をおどらせた、たくましい汗と鼓動が、かすかな風を生み、どこか静かにたたずんでいるようだ。
おもいの仔虫を黙らせて、思考を凝固させ、俺たちの汗と暑さが、体を引きずり、どこか知らないところまで連れて行ってくれた。
 俺たちのつけた風の名、それはまだそこにいた。
一匹の幼虫が静かに尺をとる。
すべての思考は、まだ閉ざされて、残された山林に、風とともに漂っていた。



「山林の昼休憩」
圧縮された飯粒の上に焼き魚がのり
それを掘削するように口中に放り込む
鯖の脂がいっとき舌をやわらかくするが
噛み締めるのは苦味だけだった
頭蓋の内壁には からからと空き缶がころがり
虫に食われた枯葉が ひらひらと舞っている
硬い金属臭のする胃壁に落ちてゆく飯粒
咀嚼しなければならない咀嚼しなければならないと
私の中の誰かが呟くのだ

いくつかの物語を静かに語るように鳴く蟋蟀の音
もの思いにふける枯れ草
かつて田であったであろう荒廃地
下草や小藪を生い茂らせ
大きく手を広げる鬼胡桃の樹

生きるとはこのようなものなのだよ
カラスはゆさゆさと羽音を揺らし
杉の天辺から天辺へとわたり行く

山は流血している
汚らしい内臓を曝け出し
そして。
いつ戦いは終わるのだろうか
私は大きな田へと続く農道を
意味もなく歩いていた



「枝打ち」
高台にある林道の脇に車を止める
さびれた初冬の枯れススキが山腹を覆い
はじき出された男たちのけだるい溜息がアスファルトに這う
自虐で身を衣にして新しい現場に向かう
男たちの嬌声に雑木は何も言わない

刈り倒された雑木の群れを泳ぐ
夢を肴に酒を飲んだ日もあった
はじき出された抑うつを抱え込んではまた
そうして男たちの今がある

油びかりするチェーンソーに給油する
打ちひしがれた心の貝の蓋を抉じ開けてエンジン音が鳴る
ひとつふたつ、男たちはジョークを散らし山林へと散ってゆく


理由

  zero

なぜなら真新しい渕に一枚のはがきが落とされたから
なぜなら古い日記帳に挟まれたかつての友人からの手紙が鮮やかだから
なぜなら花は美しいだけでなく春は温かいだけでないから
なぜならどこまでも鋼鉄が広がり踏みしめるすべては冷たく硬いから
なぜならあなたは私との恋が人生で初めての恋だから
なぜなら言葉はどこまでも真実とすれ違い続けるから
なぜなら私の人生は何度も終わり何度も始まったから
なぜならあなたは自分の美しさに自信が持てないから
なぜなら私は自分は美しくなくともあなたを喜ばせることができるから
なぜなら遠い山に季節はいつでも気遣いを忘れないから
なぜなら木の梢に一羽の鳥がとまったまま声を失っているから
なぜなら早朝に目覚めた判事がすべての法律を眠りの奥に投げ捨てたから
なぜならあなたは今朝私に長い手紙を書いたから
なぜなら私も今朝あなたに長い手紙を書いたから


四月某日

  鈴屋


草が生える
歩はのろい
わたしはわたしと平行している
目の前で草が生える
43°の酒を一口、喉にとおす
洋梨の形した女が叫びながら坂を駆けおりてくる
わたしはわたしを見ないし
わたしもわたしを見ない
坂の上で雲が湧く
坂の下で洋梨の形した女が叫びながらバスに乗る
とつぜん陽が差し
サンシキスミレの猿顔が
いっせいにわらう
ばかな日だ

胃が熱い
ペットボトルのウーロン茶を喉に通す
目の前で草が生える
セスナが飛んでいる
坂の上に雲がたちこめる
エンジン音が空をかき回している
見あげたままめまいする
以前、わたしはわたしと会ったことがある
如才ない男だった
何度も足を踏み出す
目の前で
キジバトがキコキコキコと垂直に飛び立ち
靴先が水溜りのふちで止まる
濡れた軍手を踏んでいる
水面で虹色が滲んでいる
水の底、ミミズが錆び釘のように曲がっている
悪くない
カラスノエンドウが咲く
ふつうの日だ

木杭が倒れかけている
踏みつける
靴が滑り
木杭が跳ね返えったので身をそらす
有刺線がブルンと震えて止む
国道のほうからバイクの爆音がしてすぐ止む
アパートに戻ろうとおもう
自宅というものがあることを
あたりまえだとおもっている
わらう
楕円の中に台所が見える
蛇口をきつく閉めてきただろうか
パッキンがあまいことに、数日
悩んでいる


夏休み

  山人


結露した鉄管を登ると
冷気の上がる自家発電の貯水層があり
ミンミンゼミは狂いながら鳴いていた
夏はけたたましく光りをふりそそぎ
僕たちはしばしの夏に溶けていた
洗濯石鹸のにおいの残るバスタオルの上に寝転がり
紫色になった唇で甲羅を干した
毒々しい竹煮草を蹴飛ばすと赤茶けた汁をほとばしらせ
嫌な臭いは赤土に吸い込まれていった

母は黙って軒先で草とりをしている
僕はそれを確かめると執拗に眠気がきて
かび臭いコンクリートブロックの冷やかさに安心して眠るのだった

暑さをほどくように
ヒグラシは小走りに夕刻を知らせ
ふと外を見ると
いつの間にかみんなが遊んでいる

何かから逃れるように僕らは
あちこちにある風を捕まえては遊んだ
いつも暮れる一日のようなあきらめを
瞳の奥にたくわえながら
もう、ひらかれることがなくなった開拓村の
僕らだけの夏休みを過ごした


速度

  前田ふむふむ


寒い夜である
ベッドに横になる眼の前を 
電気ストーブが燃えている
それは
しずかに 明るさを 放射して
わたしの胸のおくに浸みわたっている
そこには 何も隔てない 
穏やかな 共存がある

けれども
調和された 穏やかさは いずれ飽きてくる
思考は 常に外部へ
弱く点る頭上の
蛍光灯のひかりと 電気ストーブが
交錯して
電気ストーブの裏に 小さな黒い影をつくる
そして
わたしは みえていない影のある
うら側を思考している
そこから流れてくる意識は
電気ストーブ全体を覆い
わたしの全身を埋め尽くそうとしているが
そこには 決して届きそうにない
距離がうまれる

だが 
影のある電気ストーブに距離を感じるのは
視線という
二点を結ぶ 空間をもった 
線分があるからではない
どこまでも対象と溶け合おうとして
叶えられない
速度があるのだ

しずかさのほかに
影は なにも応答することはない 
答えを捜しながら
わたしが 何かを求めているうちは
めらめらと燃えている 
電気ストーブと影は
つねに わたしの速度に 
押しつぶされている

しかし 夜も更けて
わたしは 眠くなり
意識することを 諦めて
まどろみに耽るとき 
わたしは速度を失い
夜の闇と共存し

距離だけを持った
一度 記憶された
電気ストーブは
同様に 夜の眼に包まれ
ひとり
いつまでも 影をつくり 
赤々として 
完成された 自由を獲得する


 


一年

  zero

輝くものと輝かないものが出会って
互いに氷として融け合った一年だった

ほんとうのことはすべて
偉大な虚構から滑り落ちた一年だった

どこまで伸びていくか分からない
指先を丁寧に繕った一年だった

咲くということが裂くということであり
割くということでもあった一年だった

得たもの育んだもののかげでは
死んだもの失ったものが雫となった一年だった

はるか遠くを見渡すために
目の前の小さな虫たちを観察した一年だった

言葉にならないものばかりが
言葉になろうとして真実を失っていった一年だった


turn

  あおむら

海辺のパラソル
青、白―白、青
どの色から始まっているのだろう
ママはゆるやかな髪を
肩に流して、背を向けている
背骨が隆起している
水筒に雫
宝石ってこんな光?なんて、
貝殻を忍者ごっこ、手裏剣
ほら、打ち上げられたクラゲがいっぱい
ビニールのサンダルで触れて
鳶が空を旋回して、
砂浜に描く、フラクタル


キャラメルポップコーンの冒険

  はかいし

ポンって跳ねてポンって跳ねて電子レンジから転がり落ちてポンって跳ねて椅子の上に上がってポンって跳ねて机の上に上がってポンって跳ねてパクッと食べられてむしゃむしゃもぐもぐ胃の中でポンって跳ねて腸の中でポンって跳ねてドレミファソラシドを歌いながらポンポンポンポンポンポンポンポンって跳ねて溶けてドロドロになってぐしゃっとなってうんこになって出てきて(一部は細胞体として吸収された)それでもまだポンって跳ねてポンって跳ねてるから下水管の中でポンって音がする(僕の細胞の中でもポンって音がする)さてとごちそうさまでした


侵食

  イロキセイゴ

鴉の子はどう見ても鳥類だが
鳥では無いようだなどと不確かな議論で
けむに巻かれて居る最中に
私は歯医者の診療台で
明らかに先週とは違う雰囲気で
先ずは黒いコードが鞭打つように
荒々しく蛇を成して足元を襲う
続いて洗浄しながら削る義歯から
水が眉間にかかり
荒々しく診療台が揺れる治療が続く
もうね、普段の環境のままに
普段の通りにね、お宅のね
普段の住んで居る環境にすり合わせた治療が好評なのでありまして・・・・
そろそろ段差にぶつかって膝がいてーぞこらと
地底の歴史が叫んでも馬耳東風だ  

そろそろ私がみつむ公園に辿り着こうとする頃
公園のベンチでは
男女の中学生のむつ事が始まって居た
女子中学生は北へ向いて居たのを
東へ向く時に
北へ向いて居た時には尻を乗せて居ただけなのを
東へ向く時に
足が開いた形と成り
男子学生と向き合う

詩のフーガを知って居る
それは歯医者へ行く前の
給水塔の草地に生えて居る
芥子のオレンジの花が
風に揺れる度によみがえって来る
清潔な私は記念碑を建てるのと引き換えに
ココにある歯が
白い黒いピンク色と国旗の様に
あるのをイブカシム
歯の根元にこびりついた黒は
執拗にこすっても取れず
ピンク色を犯す黒い縦線は
二つか三つほどあり
どう考えても正気の沙汰ではないからだ


宵のはたらき

  

ぬかるむ宵闇にあたたかく 石くれを
埋めた喉の、ふるえている
遠雷のにおいで熱を帯びて痒く鳴る
指先が 時間を〓き混ぜてあらわすものが
この
群青色であれば、うれしい

硝子が崩折れ
て、
重なる隙間が頭の中を埋める
声が声を押し出したいのです

おっとり 近づくにぎやかな動物の
群れの色
眼の前に 拡がり、滲み
輪郭がぼやけてしまったあとで
言葉だったかもしれないと振り返る
今夜、胸を膨らませ吸い込むものが
寒天だったとしても

蠕動する胃
新品の
げっぷ、重力に歪められる


らりぃ・アリス

  atsuchan69

アリスはそこへ乱暴に投げだされ
黒い瞳に大粒の涙をためた
やがて朽ちてゆく散らされた意味の
灼熱に乾いたサハラカラーの砂漠の丘に
一面、蒼く鮮やかに咲く魔の花の
雑音交じりの夢へといざなう、

 【邪まな・・・・】

邪まな罪の香りをキッスのあとに嗅ぎ、
あれは許されざる声の生まれる
たった数秒、縺れ、ざらつく舌のうえで
言葉になるはずだった君への想いが
熱いフライパンに落としたキューブバターのように
たちまち融けて変色してしまった

 【愛という・・・・】

愛という熱病に冒された、
ピンクのノースリーブワンピースに痩せた身を包んだ
地下の駐車場で待合わせた牝のバニーが一匹、
青いサテン地のシーツを波立たせ
たった一度きりではない過ちを再び犯して
笑いながらパンティを下ろしはじめる

 【こっちへ来て・・・・】

こっちへ来てと牝のバニーが言い、
鏡の中からまだ帰れない私は
今いる場所を懸命に探そうとする
濡れたラビアにリング状のピアスが輝いている
音符の描かれた水色の爪がその周囲を這う
――こっちって、どこ?

 【きっと私は・・・・】

きっと私は鏡の中のアリスだった
ベッドのまわりには四人の女装した私がいた
あんたの濁った眼で私を見ないでよ
ちゃんと心の眼で見なさいな、
この服、ラフォーレで買ったエイチナオトよ
本当の私はさあ、可愛い少女なの!

 【そしてアリスは・・・】

そしてアリスはよく澄んだ瞳を瞬かせた
ベッドには人間を食べる水玉模様の巨きな花が咲き、
またベッドでは人間の言葉を話すイルカが仰向けに泳ぎ
そしてベッドの真ん中には不思議な穴があいていた
恐るゝ穴を覗くと、ああ。なんだ私は私だった
とつぜん私は♂になって俄然、牝の乳房に食らいつく


詩集を燃やしに

  泥棒

ガードレールに
夜露死苦ってスプレーしてから
詩集を燃やしに行く
夜の公園へ
夜のザリガニ公園へ
不良が
詩集を燃やしに行く

ザリガニ公園は
中央にある大きな池のまわりに
ザリガニがいるから
ザリガニ公園なのではない
誰も
この公園で
ザリガニを見た者はいない
いないのだが
夕暮れ時になると
ブランコや鉄棒やシーソー
池のまわりのジョギングコース
入口にある梅の花やベンチ
学校と同じ作りの水飲み場
隣りのテニスコートなど
公園のどこにいても
死んだザリガニのような匂いが
すこしするから
みんな
ザリガニ公園とよんでいる

夜のザリガニ公園は
とても静か
人はもちろん
梅の花に鳥もいない
夜風が
死んだザリガニのような匂いを
ゆっくりと消して
春を連れてくる
不良はいつも
この季節になると
詩集を燃やす
大人になる前に
必ず
すべて燃やす

右肩に根性
左肩に青春って刺青をして
ザリガニ公園の脇道を抜けて
向かいにある
ケーキ屋のシャッターに
喧嘩上等ってスプレーして
自分の詩集をすべて燃やしきって
大人になる

詩人は右腕に比喩って刺青をして
左手首には
誰も読めやしない
雰囲気だけの
桜の花のような刺青をして
大人にはまだならない
なれない
詩は常に詩の対極にあるのに
夕暮れ時に捕まえた
巨大な比喩を
丁寧に描写してしまう
それは
とても危険なこと
そして
泳ぎ方を知らない不良は
比喩の海に溺れる
さらりと
泳ぎきった詩人は
ザリガニ公園の茂みに捨てられた
鉄パイプで
ずぶ濡れの不良にぶん殴られる
流れる血が
まるで詩のように
西日に反射してしまうから
今度は
血の海に溺れる
それは
絶対に誰も泳げない
ザリガニ公園は
陽が沈み
深夜になると
濃い霧と
小さな竜巻が
映画のように演出され
当たり前のように
血の匂いがする

題名が燃える

名前が燃える

十代が燃える

空白が燃える

改行が燃える

数字が燃える

比喩が燃える

技術が燃える

素朴が燃える

感性が燃える

深夜のザリガニ公園
死んだザリガニのような匂いは
しない
ベンチに座り
燃えきった詩集を眺める不良
帰り道
ガードレールに
青春を世威瞬ってスプレーして
歌うように
急いで帰る
詩人はそれを
白いペンキで消して
巨大な空白をつくり
遅れて
やっと大人になる

ザリガニ公園の出口には
散りきった桜の木が
はやくも
六月の雨に打たれ
誰よりも
主役のように
突っ立っている


タオル

  れたすたれす


時の重さを計ろうなんて、見なれたタオルに顔を埋めていた頃。
現象は、見せつける、それに変わる言葉も、検索出来ないほどの
既在。初夏はもうすでに眠りを、昼間から気だるい倦怠を、再放
送をなん度も見せられるにつけ、台所に経つ彼女の臀部が、時の
重さを、土偶の偶然の出土・尾てい骨を割られ、出血し出現する
、限定された信仰を、既にもたされて、開示されてしまっている
《自分》。世界は何も語れず、歴史病的社会は、何かと時の権力
者を照らすに好都合な光を見ない限り、身体を賭したりはしない
。尾がある犬の時間性…眠っている間、アンリ・ルソーの「黒い
ライオン」善悪の彼岸を《今》渡ろうとした瞬間。それは尾てい
骨を割られ人類として、時間性を回復させられる「眠った女」か
?それは、尾を踏んづけられ、身体中踏み潰され「犬肉」にされ
てしまった犬が、この世に残した「ひと吼え」か?

這い根は、老犬に踏んづけられた記憶を思いだし、語り始める。
それは時間性では吊るされず、空間性として物体と見なされる。
渇きは、吊るされる。獲物を吊るして、見せつける《あいだ》。
それは鳥か?ハンガーには、顔用のタオル、手用のタオル。廊下
には陰洗用バケツが、ポツリ。判別のつかない、これはタオルか
?ぞうきんか?作品としての「擦り切れた雑巾」には、いかなる
非秘蔵性が、秘められて在るというのだろうか?国家の、政府の
空間性の本質の内には、非科学的な歴史学はあるとしても、考古
学はすでになく、地質学は無視され、古生物学的知見によって、
人体解剖されても彼らには気づかれない。通常「日の丸」は、非
本来的に、「吊るされて」在る。その本来的時間性は、止まって
在る。美は知られては、ならない。無規定的な美でなければ…と
もかくどんな「風に」でも、吹かされなければ、それも、矢張り
、秘蔵されたままである。

文学極道

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