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作品 - 20150522_247_8090p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


詩集を燃やしに

  泥棒

ガードレールに
夜露死苦ってスプレーしてから
詩集を燃やしに行く
夜の公園へ
夜のザリガニ公園へ
不良が
詩集を燃やしに行く

ザリガニ公園は
中央にある大きな池のまわりに
ザリガニがいるから
ザリガニ公園なのではない
誰も
この公園で
ザリガニを見た者はいない
いないのだが
夕暮れ時になると
ブランコや鉄棒やシーソー
池のまわりのジョギングコース
入口にある梅の花やベンチ
学校と同じ作りの水飲み場
隣りのテニスコートなど
公園のどこにいても
死んだザリガニのような匂いが
すこしするから
みんな
ザリガニ公園とよんでいる

夜のザリガニ公園は
とても静か
人はもちろん
梅の花に鳥もいない
夜風が
死んだザリガニのような匂いを
ゆっくりと消して
春を連れてくる
不良はいつも
この季節になると
詩集を燃やす
大人になる前に
必ず
すべて燃やす

右肩に根性
左肩に青春って刺青をして
ザリガニ公園の脇道を抜けて
向かいにある
ケーキ屋のシャッターに
喧嘩上等ってスプレーして
自分の詩集をすべて燃やしきって
大人になる

詩人は右腕に比喩って刺青をして
左手首には
誰も読めやしない
雰囲気だけの
桜の花のような刺青をして
大人にはまだならない
なれない
詩は常に詩の対極にあるのに
夕暮れ時に捕まえた
巨大な比喩を
丁寧に描写してしまう
それは
とても危険なこと
そして
泳ぎ方を知らない不良は
比喩の海に溺れる
さらりと
泳ぎきった詩人は
ザリガニ公園の茂みに捨てられた
鉄パイプで
ずぶ濡れの不良にぶん殴られる
流れる血が
まるで詩のように
西日に反射してしまうから
今度は
血の海に溺れる
それは
絶対に誰も泳げない
ザリガニ公園は
陽が沈み
深夜になると
濃い霧と
小さな竜巻が
映画のように演出され
当たり前のように
血の匂いがする

題名が燃える

名前が燃える

十代が燃える

空白が燃える

改行が燃える

数字が燃える

比喩が燃える

技術が燃える

素朴が燃える

感性が燃える

深夜のザリガニ公園
死んだザリガニのような匂いは
しない
ベンチに座り
燃えきった詩集を眺める不良
帰り道
ガードレールに
青春を世威瞬ってスプレーして
歌うように
急いで帰る
詩人はそれを
白いペンキで消して
巨大な空白をつくり
遅れて
やっと大人になる

ザリガニ公園の出口には
散りきった桜の木が
はやくも
六月の雨に打たれ
誰よりも
主役のように
突っ立っている

文学極道

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