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作品 - 20150218_301_7924p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


暁のエクスタシー

  atsuchan69

細身の女は、
恐ろしく小さな核ミサイルを抱いて
なぜだか不思議と人通りの少ない
一匹の異様に痩せた野良猫の、
か細い瞳で睨んだ薄汚い裏通りに
幾年月も在り続けたベンチさえ置かれていない露天のバス停に佇み、
小雨の降りしきる一日を
当て所ないジプシーのように立ち尽くして
血管の浮き出た白く透明なかぼそい首に、
「私は、捨てられた人形です」
 と、
赤いマジックインキで書かれたベニヤの板切れを下げていた。

通りすがり、そして女なら誰でも良く
昼日中からE、F、G、の次がしたくなった私は拳大のペニスを硬直させ‥‥
目敏く、真っ赤なラム革のミニスカートを穿いた細身の彼女を発見するや、
行き過ぎたレクサスをわざわざバックさせて
おもむろにバス停の真横に車をぴったり停めた。

速やかに電動スイッチを押して助手席側の窓を開け、

それでも幾分、はにかんで
赤らんだ、拳大のペニスみたいな顔を覗かせて
――乗らない? 送るけど‥‥
そう云った。

「この子‥‥名前は『永遠』です。いつも温めていないと、いけないから」

そこで私は、車から降りて助手席側へ回るとおもむろにドアを開いた
「君は、捨てられた人形だろ? だからボクが拾ってあげるよ。さあ、乗って‥‥」
「あのォ、この子は、半分、日本製だよ」
得体のしれない彼女の話など、ただただGの次がしたいだけの私には上の空だ

そうして、ホテルのウォーターベッドにミサイルを挟んで二人は仰向けに並んだ、

「この子を、立派に♂発射させてあげたいの」
アチラ訛りのある細身の女は、
白く滑らかなミサイルの胴体を摩りながら言った
「ああ。それはヒジョーに難しい相談だぜ」
「お願い、そのためなら、私。なん度でも貴男を喜ばせることできるヨ」
「‥‥」

夕暮れにラブ・ホテルを出ると、鬱陶しい雨はもう止んでいた。
レクサスは高速道に入り、やがてナビの案内で海へと向かった

「子供のころ‥‥砂浜で、夏の夜に花火大会をしたのを思い出すナ」
「私は、黄昏のビーチで『北の家族』とバーベキューをしたこと、が、ある」

濃い潮風が、夜の渚に佇む二人の髪を揺らしている
傍らに、茶褐色のハングル文字で
恥しげもなく『偉大なる永遠』と記された
醜い大人の玩具のような核ミサイルを砂浜に転がして
二人は、幾度も口づけを重ねた

「核実験と、マスターベーションってよく似てるよな」

「男の人のことは、知らないけど。でも、そういうものなのかしら」
「しないと、さ。もう、本当にダメっていうか‥‥」
「ガマンできないんでしょ」
「うん。できない」

「もうじき、迎えがくるわ」
「迎えって誰が。君をかい?」
「いいえ。私じゃなく、この子を‥‥眩しい朝が、この子を迎えに来るの」
「でも君は、こいつを、早く発射させてあげたいんだろ」
「ええ。ゼッタイ、そうだと思います」
「じゃあ、早くしないと。スイッチはどこに?」
「スイッチは、、ここ」――彼女は、服の上から両の乳房を触った。
「あーん。どうやって?」
「まず右の乳頭を3秒長押して、次に左のを5秒間押すとカウントが始まるだよ」
「発射までの時間は?」
「約15秒」

「わかった。じゃあ、始めよう」

「発射台のかわりに‥‥」
転がった円筒を彼女は抱き起すと、
「噴射時の衝撃からミサイルの体を支えるための垂直な穴を掘る、出来るかしら」
いくぶん強い口調でそう言った。
「それなりに‥‥随分と、手間がかかるんだナ」
長袖シャツの両腕を捲って、しぶしぶと私は従った

用意が整うと、彼女は、ブラウスを脱いでブラジャーを外した
ちょうどその時。灯台の明かりが届いて、痩せた彼女の胸を赤裸々に照らした

「ちがう、ある。そっちは左。あなたからの右じゃなくて」

「あ。そうか」
「じゃあ、押してみてほしい‥‥15秒だと、一体どのくらい逃げれる‥‥ですか?」
「男子100メートルで世界記録は10秒を0.2秒切るくらいだろ」
「とにかく起動したら、すぐに走る。よろしいか? あなた、はじめる、どうぞ、ゴー!」
素晴らしく長い脚の彼女に促されて従うと、
「起動・しました」
小さなミサイルは、日本語で音声報告をした

「逃げよう!」

「発射まで・あと15秒です‥‥」
私は立ち上がり、次の瞬間。――裸の胸のままの彼女の手を引いていた
「ブラジャーを忘れちゃったわ」
「そんな。取りに行く暇なんかないぞ、走れ!」

「発射まで・あと・10秒・です‥‥」

「ええと、もしミサイルが飛ばなかった場合は‥‥」
走りながら、とつぜん緊急な疑問が生じ、私は叫ぶように彼女に訊いた
「いますぐ、ここで爆発するだけ」
「ちッ、マジかよ!」

「9・8・7‥‥」

「もう、だいぶ走ったんじゃないかな」
ふり向くと、そこで私は彼女の手を放した。

「3・2・1‥‥0」

真っ暗な砂浜には、波の音しか聞こえない

「あれ? 飛ばねえぞ‥‥」
と言う、私を、見事に裏切るかのように、
忽ち、ミサイルはシューンンンンンという高熱ガスの噴射音と、
凄まじい化学反応が生んだ色鮮やかなオレンジの光と白煙とともに
星々の煌めく夜空へと
火炎の軌跡を残して 消えた

「終わったわ。これですべて」

「で、あれはどこまで飛んで行くの?」
「‥‥」
彼女は僕の質問に答えなかったが、
ややあって、デミタスカップに収まる程度の溜息を吐いた後、
「行きたいところは、もちろん今から美しい『永遠』のはじまるところよ」
そう言って、外されたブラウスのボタンを不安げに弄りはじめる
「ふーん。じゃあ、とにかく街まで帰ろう」
「いいえ。まずブラジャーを取りに行かないと‥‥」

細身の女は、果てのない海のどこかを見つめると、
ふたたび愛のない捨てられた人形の顔をした

「あ、ミサイルの飛行距離って?」
ふたたび海辺へと向かう彼女を足早に追いかけて私は訊いた
「たいして飛ばないと思う。だから、はやくブラジャーをつけないと」
「え?」

とつぜん、薄闇の空が真昼のように明るくなった
何かが生まれたことを告げる雷にも似た声が、そのすぐ後に全天に轟くと
世界中の「捨てられた人形」たちが、
たった今、輝かしい胸に蒼褪めた色のブラジャーをつけて
両腕を通したブラウスを堂々と大きく開き、

「主よ、来りませ」

と、それぞれの言葉でしっかり呟くと
私と、肉眼で見えているこの古びた不確かな場所とを道連れに、
やがて始まろうとする深刻で悲惨な朝を迎えることなく
すべてを、一瞬で消滅させた。

文学極道

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