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作品 - 20150212_176_7910p

  • [優]  成人 - zero  (2015-02)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


成人

  zero

全ての色彩から、全ての音響から、全ての芳香から見放され、僕はこの空の沙漠で下界に着地するすべを知らなかった。僕は太陽として余分すぎる存在であり、意味もなく光を放ちとても醜いので、いっそのこと夜が積み重なる下に砕かれていたい。僕はどんな距離も、どんな風景も経ることなくこの空の沙漠で飢えているので、途中で拾ってくるはずだった愛の小石や連帯の花弁を一つも携えていない。

僕は成人になることで誰からも手を差し伸べられなくなった。成人になったときの喪失感、それは少年の喪失ではなく、たくさんの手の喪失だ。現に僕はまだ少年だし、これからも少年の鉄筋で貫かれていくだろう。これからは僕が手を差し伸べる、水の手、風の手、あらゆる手を他人に差し伸べる、だが少年の僕にはまだ手が一本も生えていなかったのだ。いや、生えている手はどれも不気味でどろどろしており、それをいかにかぐわしく他人との握手のかたわれとするか、僕は森林の一葉一葉から辞書を編み出さないといけない。

僕は手も足も持たないただの太陽で、転がることしか知らない。とりあえず人間の町を転がってみると、大量の水で冷却されるし鑿で削られるし、人間の町から追い出されては少しずつただの物体になっていった。僕がまともな人間の形でもって荒野を歩けるようになった頃、もはや僕はあらゆる人間から毛嫌いされ、あらゆる町から締め出されていた。僕は太陽から人間になった。こんなにも夥しく傷ついてようやく。だというのに、人間になった僕にはもはや人間としての居場所はないのだ。再び太陽に戻れない僕はこっそり月になった。夜、ひそかに人間の町を照らしながら、人間に思いを注ぎ続ける月になった。

月になった僕は、自らの反射する光を操って光の人間となり、夜の孤独な少年や老人たちと少しずつ会話を交わした。この夜という莫大な海に墜落する光の人間として、僕は少しずつ色彩と音響と芳香を自らの手から生み出すようになった。成人になるということ、それは太陽が月に変わり、月が再び人間になろうとする、その叶わない夢の試み一つ一つであり、いつか人間の町に人間として住むという夢の祭壇に、自らの体ごと血まみれの生贄として捧げるということだ。

文学極道

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