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作品 - 20141122_781_7758p

  • [佳]   - zero  (2014-11)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  zero

分析された青空に立つ波としての分割された雲の層
植物たちのひしめき合いから放たれてくる芳醇な気体
俺たち岩だらけの登山道を隊列を作って歩き
すべての壁は初めから存在しなかった
標高と共に植物の命は小さく凝集され
標高と共に土はあらわに全角度から俺たちを照射する
俺の肉の中にあったすべての知識は息と共に吐き出され
俺の骨は途端に広がり過剰な風景を記録し続ける
山は際限なく人と植物と岩石を分解し
山の盛り上がりは風と日光でここまで膨れ上がった
展望が開けた場所で俺は何度も遥か下方へ身投げをし
その幻想の涼しい余白に腕を泳がせる
俺は文化を脱ぎ捨て裸で裏返った
じかの陽射しとじかの山肌から異常な意味を受け取った
ああ世界において万象は互いに奪い合っている
俺は山をそっくり盗み取ったが俺もまた山にすべてを盗まれた
実存などどこにも存在しないし壁もまた存在しない
山はおのれの不自由でもって俺の不自由をあがなった
俺の肌を滑り落ちる感情と形容詞
ここには主語だけがあり述語など何一つない
莫大な数の交信が暗黙裡に行われ
それは土と岩と苔と草と木を媒体とした
生きることに必要なことをすべて失って
生きないことに必要なことをすべて受け取って
俺は山を降りた先の街並みに新しく迷子になった

文学極道

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