#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20141021_380_7710p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


籠のない日

  村田麻衣子

あの瞬間だけ
存在していたあなたは
監視カメラを覗いている
そのフレームにあなたが浮かびあがる
僕が
記憶の先端
そのぬるぬるとした
かたちになり
そのいつまでも10cm程度
それは小さなあなたの
腕をじたばたとそ
させて大腿は
均されていつまでも滑らか
めりこんだまま
わるい とても悪い
思考がこんがらがったままです
遠くから聴こえる救急車が連れ去った
その日付時間
消滅する
迷子の神様
といなくなって
いたことしか
憶えていない
指をさす
翳が飛行機雲の上昇が終わるあたり
12階の部屋の裏側 とてもきれいなものが
消滅し
空に
堕ちていった
そのように あの時は
歴史を
もたず
去った

もうすでに存在しない
産み終えた母もすでに、母の母を失い
母のことを思いだすのは
母が病んだとき
その日は、餌が得られないのは
しかたなかろう
刈にいかなければならず
わたしといると
二つの異なる映画のヒロイン
ヒーロー
僕であるかのように
喉がからからになったり
くたくたになるまで
働いたりした

使ったことなどないのだろう
いびつな 母の杖を
砕いて
籠をつくった
母はいきており
はつらつと
訪れた


杖は枝の
芽吹く前からそうなるまでの
瞬間を成り立たせて
いる
死んだ眼の少女の映像が時間を経て
やっと、
想像が
更新され大量生産され
違う電極をもつ
産物になる。

花の記憶にも
ぶちあたって
それは過去にとどまっていないから
母は乳房が大きく、
安くくさい看護師の帽子をかぶって
誰かとまじわっていた
後ろ向きでよく見えなくて
誰かの事をいやだと思った
大きい乳房
その質感がわからないのはいやだと
後ろの大腿から
見える膣の ひだが 
あまりに美しく
そこにあたかも存在していた
かのように僕は
滑稽に
ふざけたりした
あなたの意中にあるように
振る舞った
僕の
すべて
赤子は
奥歯で噛む
身体の奥底から欲しているもの
その杖が突き刺さって
地面につけた足の
こそばゆさ
母の立位をたすける
母は湿度そのものであり
あとは美しい建築にあこがれて
そこから離れようとしなかった
やさしさを
僕にほうばらせる
ひとつひとつの存在へと
変化していく
その強さわたし自身に
たわむれる
わたしの悪い癖を知っていた
触ってはいけないところが
あまりに多く雛鳥のように
逃げだしたくもなる
私自身が
そうであったからかもしれない
見てはいけないもの
食べてはいけないものに
晒されて
溢れている素粒子の顔を描き出し
走り出した
違う電極を、与えられて
わなわなと戸惑っている
わたしば
溢れ出ている公園の蛇口を
とめた
得体のしれない衝動を
戦場から日常に
もちさることはできない
その日常に晒されるだけ晒されて
皮膚の未熟性が
ゆういつのつながりとなり
母に触れては
あたたかだった
記憶にぶちあたる
そして光量をあらわすメーターは
振りきれたところで
静止している
だからわたしはあなたの顔によく似ている
あのこにも
よく似ているという
あのこは 母の杖で籠をつくる
あらがったじゅうりょくが
僕のところに
かえって きたかのように
あなたそのものが
突き刺さってとれない

やわらかく砕ける骨が見えるのだという
まだ母は杖など使ったことが
ないというのに
つながった違う存在が
あやうく ふるえている
ここまで あるけたと
地図を見せる
ここまでならいけるわと
軋む
その音は、
聴こえるのだという

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.