だって夢に出てきたのだから仕方ないじゃない
まさか個人の夢にまでイチャモンをつける奴もいないだろう
で、そいつがさぁ。人間みたく二本足で走って
夜の街をぶらつくオイラの方へと身体を揺すりながら向かってきた
コワイなんてもんじゃない、現実にこんなもんが存在するんだ
ああ、夢の中だけど。
でもまあ夢の中では確かにリアルな設定になっている
そいつは突然襲ってきて噛みついたりはしなかったな
実際、2メートルを超えるトンデモなく巨大な縫いぐるみの犬なんだが
やっぱり夢の中では【本物の】生きたコンソメパンチの犬だった
オイラの眼の前には元気なナマ足のお姉ちゃんがさぁ
ハミケツのショートパンツ穿いて今そこに立っている、っちゅうのに
そいつのせいで声も掛けられないじゃねえかよ
しょうがねえな、今夜は諦めて温かオウチに帰ろうか
かえりたい かえりたい あったかなんとか かえりたい
――っていうのもさ、
夢に出てきたフレーズなんだから許してくれよん、クレパス、色えんぺつ
それよりも紅い首輪のコンソメパンチの犬だ
なんでオイラに纏わりついて駅からの家路を一緒に歩いているんだよ?
Pコートの左ポケットを弄るとランチパックが一個入っているのに気付いた
オイラの好みはツナマヨネーズだ
おまえにやるよ、これやるから付いてくんなよ。コンソメパンチの犬よ
なぁ聞いてんのかよ え? イラナイってか
ふと夜空を見上げると、
シャーロット・オリンピアの厚底パンプスが何百足もの大編隊で飛んでいた
色は不明だ サイズもわからない しかし自由奔放かつ洗練された独特なデザインが
白々しい冬の闇に掻き消されるよーなことは‥‥ない、たぶん
それでとうとうコンソメパンチの犬が家までついて来やがッタ、
どうか夢に出てきたフレーズなのだから許してくれ キャント・バイ・ミー・ナントカ
地球をあげるよ 世界をぜんぶあげる だからやらせてくれ お姉ちゃん、
玄関先にはニコール・キッドマンがいて今夜は鶏肉のガンボだと言った
おまえ、ちょと寄っていくか? よかったらメシ食べてゆけよ
オイラみたいな開拓民の家の食事っていえば、やっぱりブラウン色の田舎臭いガンボなんだな
ローラ・インガルスんちの夕食みたいだろ って知らないのかよ、大草原の小さな家
醤油かけるか? ガンボには醤油だろ 宇宙人なんだから。捕まった宇宙人といえば、たいがい醤油顔だしな。嘘だけど
おまえ犬だから知らないだろ、妻の実家キッドマン家は昔むかしはキッコ・ド・マン家と呼ばれていたんだ
それがある時を境に、キッコマン家とキッドマン家に分かれた‥‥
おいおい、アホな話なんか聞いてないで早く食えよ、早く食って 早く帰れ もっともっと醤油かけるか?
ああ、それはテキサス・キャビア。ブラックアイドピーズとコーンのサラダみたいな‥‥
そいつはスタッフドポテト、ニコールの得意料理 なんか夢のくせに細部まで拘っているだろ
メシ食ったらオイラの部屋へ来い、見せたいモノがある
これだよ、がまかつ「インテッサG-IV」 リールはシマノ「ステラSW」。オイラ、レバーブレーキは苦手なんだ
こんそめ こんそめ コンソメなんとか〜
結局、コンソメパンチの犬はオイラの家に泊まっていった
すこし早い朝、リビングへ行くとソファでやつが逆さに新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる
「おはよう、コンソメパンチの犬」
するとやつは新聞に隠れた犬の顔を少しのぞかせて、こう言った。
「おはよう、と言ったからには‥‥これは夢じゃない。でも、これは夢じゃないと信じている君の夢の中の夢なのかもしれないよ」
たしかに。コンソメパンチの犬やらキッドマンの肖像権問題も含めてこれが夢の中の夢というのなら万事うまくゆく
妻はオーブンで温めなおしたオニオンパイと同じ皿にグリッツとベーコンエッグを盛った
よかったら、ここにオバマとか呼んで楽しい朝メシパーティとかをやらかそうか?
「いいね、それ。メイビー、グッドなアイディアかもしれないね」と犬が頷く
で、さっそくコンソメパンチの犬はホワイトハウスに電話する、やったァ、OKみたい!
「ついでにさぁ、キムとマフムードも‥‥あっ、そうそう。ビクトル・ボウトも呼ぼうか」
「じゃあ、普天間からオスプレイも呼ぶべきだ!」
床板を突き破ってジェットモグラに乗ったバージルが登場、木彫りの顔が妙に硬直したまま眉と口だけを動かして叫んだ
その時。眩しい閃光が激しい風と爆発音をかなり後に残して部屋中を強く照らした
するとたちまち、妻の顔に粥状のグリッツが付着し、運ぼうとしていた料理が宙に浮かんだ
そして壁が崩れるとかん高く怖ろしい鳴き声とともに隣村の身籠った原子炉から何かが生まれ、
新しい命と引き換えに周囲何十キロもの形あるカタチとすべての生けし生けるものとを消失させた
チェッ、産みやがった。これで2匹目だ オイラがそう言うと、顔中煤だらけの妻は「今度のは誰の子?」
あきれた風にそう言って、皿を放り投げると放射能の灰を被ったボサボサの髪を掻き毟った
「まあ、これは夢じゃないと信じている君の夢の中の夢の出来事だし」
コンソメパンチの犬は首のとれたバージルの人形を抱いて、笑いながらそう言った
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作品 - 20141007_232_7693p
- [佳] コンソメパンチの犬 - atsuchan69 (2014-10)
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コンソメパンチの犬
atsuchan69