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作品 - 20140828_844_7630p

  • [佳]  邂逅 - 破片  (2014-08)

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邂逅

  破片

 しあわせが燃え上がり、足跡だけが増えていく。二十秒の苦しみと、青くなくなったものたちをすりきり二杯、ゆっくりと、噎せ返らないように吸い込めば文明の体温に酔っ払って、いつまででも眠れそうだと思えるようになる。はじめまして。未だ出会ったことのない人たちと出会うことで、かたちなき足跡の主は、存在する青いものの全てに火を点けて回る。

 指先がふれあうと星が生まれた。それはとてもかなしくて、空っぽだった。夜の向こうに朝なんてないってこと、知らなかった頃に帰ろうと思うのに、人間みたいには消えてくれないあの星がまたたき続けているから、地上のどこへ行ったとしても思い出すことになるのだろう。順接の優しさにもたれかかる姿は、醜いだけだから、ふれあった指先をねじまげて手折ることにした。

 いたみを歌声に、いとしさを嘔吐に映し出す。吐き出される無数の蛹たち。みんなの羽化を待っているあいだ、銀翼をはためかせる鳥たちが見せつけるように飛翔している。早く上がりたいね。知らない顔、知らない声を踏みにじって、切り貼りされた空の継ぎ目をもう一度引き裂いていくその循環が赤く、送電線の被膜の内側で束ねられたままじっと身を潜めている。蠢く蛹たちの生命に寄り添う、菌糸にも似た日々。

 一つの切れ目もない曇天の下で、上昇の軌跡は、線分として貶められる。深く切りすぎた爪を悼む少年はまだ、愛を口にすることができない。言葉を溜め込んでいくための喉ぼとけはまだ薄いから、うわずって飛んでいくだけの声はどこにも着地できずにちぎれていくから。直線にも似た終わりのない航路を進み続ける踵に、誕生の祝日から飛び立った炎が迫る。そしてまた貶められる。凍えるほどに冴えた青空の下で。

 均一だった砂浜の地面をおびやかす足跡が、行方の知れない生命の寄り代となり、繁殖を繰り返している。はじめまして。たった今生まれたばかりの少年たち、そして少女たち、生まれたら、朝が来た。来るはずのなかった朝だ。こんな日には人間だって鳥のように空を飛べるだろう。上がっていったら空からの殴打をかわして、どこまでも果てることなく飛行し続けていけばいいと思う。絡み合う睦言から作り出されたいくつもの帰結を、きみたちだけは持たない。その身軽さをもって。

 青くないものを追いかけて、ときどきは浮遊する肉体を繋ぎとめて、何度目かわからない、たった一度だけ使えるあいさつを交わす。空と海が見えなくなる場所で、あかるくうつくしいだけの夜明けを背に、まだ動けなくなったままでいる人々の呼吸が、いずれ聞こえてくるように祈りながら、耳を澄ます。
 はじめまして。はじめまして。はじめまして。
 日食の起きなかった正午、それぞれが息づいてから集合していくしあわせの、描くもの、炎に焼かれながら失われない人の論理、足跡を数える、数えきれない、はじめて見つけた痕跡が減ってから増えて、そうしてまた減る、二百八十四人目、生まれたときから少年だった、目の前で浮かび上がり空へと落ちていくのを、見ていない、大脳の右隅に炸裂するはじめての誕生日を意識として摂取することが、できなかった誰かがいる。夜。朝。昼。はじめまして。

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