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作品 - 20140812_682_7607p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


森についての断章

  前田ふむふむ

   


序章

淡いまなざしを
朝焼けをした巨木におよがせて
動きだす直き視界に映る
せせらぎは
ふくよかな森の奥行きをたかめている

森の新しい来歴は 
茫とした朝霧を追い越して
あさいみどりのつま先から
からだいっぱいに
透きとおるひかりの中庭を
靡かせている

東の空から ひらかれた青さが
無垢な湿度を
たずさえて 鶏の背中を起こしていく
端正なしずかさが せりだして
かすみを帯びた ひとつひとつのひかりが
夥しい木々を色彩で染めていく
浮き上がる森から
わずかにずれる みどりいろの濃淡の底が
うすく立ち止まる朝に 清々しい呼気を
緩やかに撒きつづける

あなたは 森の肺胞が はきだしたテラスで
恋人に微笑み返して
あつい みずいろの夏を
掌におかれた 中原中也詩集に
萌たたせる

季節が芳しく衣擦れる午前の歩み

あなたの美しく脱いでいく
多感な時間の針は
涼しい花篭のなかではえる
黄色い百合を
うつむく
亜麻色の髪に添えるしぐさに
費やしている

揺れる恋人の声が 爽やかに立ちのぼる
しなやかな森のみずが
ひとたびだけ流れる
深まりのなかで

  


断章 1

オオルリが青い姿勢を空に向けて
ピールーリィ ポピーリィ ピピ  ギッギッ
と囀っている
その声から
すべるように
森のかおりが溢れでている

木樵たちが渓谷をのぼっていく
汗ばんだひたいをタオルでふきながら
親方が先頭を歩けば
笑いながら 若者たちがついていく
声が静寂をきって
薄化粧のこだまを四方にくばり
森のあさい夢を覚まして
静寂の高低を 
さらに 深めている


断章 2

陽が頂点を
主張してくると
鬱蒼とした
眠れる森は
ひかりをふところに浸して
みどりのまるみを滲ませながら 
いのちの数式を 
一段と 
うすきみどりに染め上げている
その刹那に
満たされた隙間を 
涼やかな風が 繰り返し
芳しい音を上げて たちのぼっている

あなたは 長い髪を
白い手でたくしあげて
流れる時間のほころびに
凛としたほおを添えている
追いかける空の青さに走るおもいは
波をおこして 激しく揺れ動き
あなたは 瞳のなかで 
きよらかに高められて
恋人との真昼の鼓動を 
あつく爪弾いていく

滴る森のみずいろと交わる 恋人の吐息

目覚めた昂揚が 小さな胸の底辺に
真率に積もりつづける

放射する日差しは
あなたの日常をゆっくりと溶かしながら
思わず込み上げた 溢れる声は
短くこだまを響かせて
無防備に佇む恋人のしぐさのなかに
流れ落ちている
濡れたくちびるを恋人のこころにあてて
あなたは 森の階段を
しずかに昇りつめていく

仄かな恋人の言葉が あなたの若い芽を
まどろんだ湿地にいざなって
比喩の森の断章が
あなたの二十歳の淡い視界のなかで
やわらかく立ち上がる

文学極道

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