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作品 - 20140611_250_7482p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


レミングの話

  uki


レミングたち、あさっての向こうに、やわらかな静脈が浮かびあがる。彼方に置きざりにしたカレーライスへの後悔は尽きず、肘をついて見あげる月の海は匂わないまま枯れ果てて。断崖絶壁まであと5キロの標識、私たちの車はどこを目指し、あるいは難破しようと目論んでいるのか。風がたよりの舟のように無実なはずがなく、運転手はふうわりと口笛を転がす。車輪は4つ。海は1つ。手術台のうえのミシンと蝙蝠傘の出会いが、私が残したカレーの半分と少しに巣くっている。ただ単純に舌においしかったのだ。残したのは逆流を怖れて。レミングたち、鼠がとろける。海でもどこででも。私は屍体を探す。匂わないのだった、花も雨も海も、場所を明け渡さないのだった、彼らと融解したいのに。どこまでも寒さだけがついてきて、裸足にもなれない。びっくりしても、ここから立入禁止だよ。飛びこんでしまったら浮かびあがらないよーに大きな重い胎児になりな。母さんのかさが増えてきっと夏まで死守できる。
腕を伸ばせば、指はたよりなく月を突く。目が2つ。あなたにも。ほほえむ口は1つ。星がいくつかまたたいている。もう日付も時間も必要ないのに宇宙は勤勉だ。泡がこいしい。いまさらだけど、車がさかさまになって海で燃えるとか派手なのは苦手だ。サーカスの裏地に、墜落は罪、と書いてある。"まとも"がどうしたっていうのさ? 腕に時計を巻きつけちゃって、人間時計やめなさい。華やかな波の音に秒針なんてさらわれるだけ。人魚になろう、いやレミングだったんじゃない、カナリアだ、いや私たちは警告にならない、誰も警告だと受けとらないよ。そうだね。自由だ。ここはかなり自由だと知るだけだ。未来はいつもあさってくらいがちょうどよかった、それなら遅くとも48時間後。ごはんを抜いてもやってきた。私はベルトコンベアーの鮭だ。霜だらけの体、冷たいてあし、お風呂は長風呂。抱きしめているお湯を抱きしめている。息を長く吐く。私は来ないはずの朝を何度も迎えた。

耳鳴りは飛行場を目指して3度墜落、未処理のノイズ。
青空だって砂漠だろう?
何もできない。
濡れている月光の航路がレミングの退路、星も光ってるしきっとどこかに行くんじゃねえか。どこかへ行くのもまた勤勉だ。
私は私でなくなるけれども、とうの昔からそうだったよね。あなたも、だよね。
あかるい、こいしい、ゆうがた、まじわり、せっぷんをゆるくほどこう。

この孤独さをいとしむ。ひとりぼっちで海を見ている気持ち、海にせっぷんしたい気持ち。レミングはそうして落ちていくんだけれども、そこにはたくさんの母さんが待ってくれていて、せっけんの香りがぶわっとたちのぼって、とてもあたたかなのでした。

文学極道

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