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作品 - 20140520_032_7461p

  • [優]  you - 村田麻衣子  (2014-05)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


you

  村田麻衣子

伝わらないと意味がないと
それしかない 噛んだストローが洗面台におっこちていた
コップとか、
病院の冷蔵庫が こんなところにあるなんて
配置が
おかしいし
噛みあとだらけ の
コップが投げ捨てられている。

「苦しい」とか「悲しい」とか
そういう言葉以前であった
投げつけられた
コップを床に みつけた
青い透明なコップはプラスティックだからか傷が
ついているいつも投げつけてしまうから
落っこちている

匙の上にのっている すりつぶされた
ご飯粒が
透けて 
差し込むわずかな
光をあつめ 掬いとられている観測であるその
すべてのきぼうが いいように
すりつぶされて おいしいかおいしくないか
その 生温かな希薄でもふくよかでもない ただおぼつかない
時折匙からこぼれては
冷たくなった 食器の置かれているトレーは。
滅菌されているが
口に入ったものがしばらくその低い沸点を
なだめるようにそう、その子の手はいつも温かだった

大人が子供にうけとらせた
ものがある 
わたしは、宿題がきらいだった
宿命を
あたえてしまう。だってさきに
いなくなってしまうから、
おとなたちは、
生きていてほしいという それで
まちがいなく
続いていく生命はうとましく いとおしく ただくたびれたようでいて
モニター上の心拍は100から120に
少し上がる
お風呂のあとだから
からだがやわらかくなって
すこしだけリハビリをする
時折
母とわたしは120の心拍に
ついて
笑いながら はなした
生温かだった粥がいつも
あふれた匙からこぼれおち それが
冷たくなる

ひねってから
しまった、と思った蛇口が洗面台で流れ続ける
送り出した心臓の血液は、投げつけたコップのようでいて
あのこの感情とは違っていたのかもしれない
憶測であるが
セメントはその流れ出た 違う流れの 力を感じていた

「そろそろ声出して
笑っていいい月齢なんだよ。」と、
母が、わらったかおをちかづける
「おもしろいこともそうそうないか。」と、
疲れた母の 頬の筋が くっきりと見えてきた

あらかじめ決められた
ただひとつの宿命
生きながらえると、
宿題をするにも早いかと、
ソウデハナイコノコハ一生コノママダ。
決別とあきらめをくりかえす
最初に覚えた言葉は
「ママ」だったり「マンマ」だったり
「アンパンマン」
だったり する
商標登録されないがその愛すべき
キャラクターとその家族たちと
はなしたことすべてが
わたしの
壊れた脳細胞のどこかに 蓄積されながら
つみあがっていく
わたしたちがつくりだすせかい
その子供たちがつくりだすせかい
わたしたちの作った つたないつたないせかいのほうに
流れてこんで給水塔の配管のようにつよく
つよく流れ込んでいくそのたぐりよせたらこわれてしまうような
淡い日常を あいしてやまないと、わたしはおもい
そのベルトコンベアーをつくったんだと、笑ったあなたを
たまらなくすきだった

かつてつくりだした世界
こちら側のせかい
駅には分別されたごみが
透けていて
あちら側がきれい、と思う。
捨てられた新聞には、
被害拡大なぜ防げず 
と何のことかわからないから
目を凝らすと 幼児虐待、と書かれていた
透かした向こう側に人々が通り過ぎるから
とらえた光が表面を
生温かに 潜んでいる
廃棄的発想。
向こう側で手をつないでいる 背の高いおんなのこと
背の低いおとこのこが短い髪で にたようなシャツを着ていた
優しいやさしい時間がながれている


つかんで そのこははあくする
離せなくなってしまう大人の指を
傍を離れられなくなってしまう大人と
ついて消えない感触はあの子のものか大人のものか

おなかがすいて くちを もぐもぐしている子を心配そうに見て
こちらのことばのよくわからない 中国人の母だったろうか
おしゃぶりをもって
「これを たべさせて いいですか? 」という
いっしゅんとまどって
いいですよとまよわずに いう

触っている血液が誰のものかわからないまま
流れている 夢をよく見る
いろんな子のところに行っては 出血をさがして
ああちがう ああちがったとわたしは走り
子供はびっくりしたような顔をする
母のものか子のものだったのか
誰のものかわかれないけれど
流れ出している それを探し当て手で押さえて
とめた
泣きながらとめた
なんじかんも もう流れていないのを
確認しようと汚れた ガーゼをはがしたら、また
大量にながれだしてしまった
そうやって目を覚ます


歯が生えた
萌出していたのを見て
痛んでいるようにも見えたから
いたいの?
返答はないけれど心拍数がすこし高かった
きっと誰にも聴こえていなかった
真夜中2時

文学極道

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