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作品 - 20140430_679_7422p

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ヒヤシンスの特徴

  深街ゆか


高架下の漂流物だったあのころのわたしの夏はオレンジジュースを飲むたびに思い出される、するどい気泡がはじけると似合うものがひとつ減って、懐かしいともだちの夢を見る。


外傷はなく内側をはげしくうちつける雨が降り続けた7月の、街をあるく子供たちの赤や黄色のレインコートは鮮やかで、ランドセルはつるんと雨粒を受け付けない、こみあげてくる大量のかわいらしさに、いつも胃薬が手離せない。五センチメートルのつま先で水溜まりを蹴れば、アメンボが逃げていく、はじかれる、レインコートと傘で高まった匿名性、傘と傘とがぶつかって、よそみをした隙にポケットに入れられていた(わたしを愛して、)すべてが底辺を五百メートルとした三角形の中の出来事、出口は見るたびに小さくなっていくから、あなたとわたし、もう再会することはないでしょう。


ほら、傘をさした人々が駅の改札口へきえていく、ミニスカートをはいた女の人のふくらはぎも丸い尻も、きえて、そこにはにぶい喧騒の痕だけが残る。


駅から三十歩はなれたガラス張りの薬局で、試供品の口紅を手の甲に擦り付ける、なにを試みても蛍光灯のなかでは定まらない、外から迷い込んできた蛾が化粧品売り場を舞って、何もなかったみたいに力尽きるところ、そこがわたしたちの生活圏なんだった、化粧品のにおい、薬品のにおい、店内の時計を見ると、わたしみたいなのはやっぱり遅刻している。
十八歳のころ分厚い風俗情報紙のランジェリー姿の女と女のあいだに、適職を見つけて、足と足のあいだのちっこい宇宙、弾力のあるそれで報酬をもらった、それだけのこと、脱いだ服をたたむのが上手になって、柑橘類をよく食べるようになって、オレンジ、蜜柑、それからグレープフルーツを齧って、肌がきれいになったわね、と母に言われたのはおとといのこと。


生理用ナプキンとオレンジジュースを買って薬局を出ると雨はやんでいた。


その夏は高架下をテレビとか動物とか
たくさんの漂流物がながれていて
そのなかにわたしもいた、
当然のようにそれらは
えいえんにその夏を漂流しつづける


きっとそれだけのこと、体内に残留しているのは与えようのない求めるものばかり
絶えず唇を濡らした(わたしを、//して)

文学極道

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