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作品 - 20140210_493_7304p

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no title

  紅月

雪が降っていた。

白に沈んでいく丘。色素のうすい幽霊たちがなだらかな稜線に沿ってならんでいる。風に揺れている。彼らの、赤い、瞳、たちだけが点り、まるで春の花のように綻んでいた。声がしていた。呼んでいた。

誰も聴きとれなかった。
やまない白は白の深淵へと手を伸ばし、白と白の差異の境に立ち尽くす。とても充足していた。色素のうすい幽霊たちの皮膚にはとうに感覚はなく、それは凍えによるものなのか、先天的な遺伝によるものなのか、判断もつかないくらい遠くからの遮断だった。肌をすり合わせる。熱のない熱がうまれる。そのたびに、幽霊たちの躰は少しずつ欠損していった。充足していった。その反芻は、彼らの躰がついに壊れ、彼らの、恒久的に燃えつづける赤い瞳たちが、やわらかな雪のうえにこぼれおちるまで続く。



そうして、永い時間が経った。
一瞬だった。そのあいだ雪は降り続けた。摩耗した幽霊たちの亡骸、を、覆いかくすほどたかく積もった、白、く、丘は山のように隆起していた。たくさんの、幽霊の、赤い、瞳が、このなかに沈んでいるのだ。と、おもった。燃えているのだ。ずっと、遠い、冬のはじまりから。声がしていた。やがて雪がやんだら、埋もれた幽霊の瞳たちはいっせいに芽吹き、赤い花を綻ばせるのだろうか。春の。遠く、いちめんに、赤い花が点っている山の、稜線の、雪解け、を、想像する、私もまた、例外ではなく、ひとしく、摩耗していた。欠損だった。そのように呼ばれた。白い、差異の、境に立ち尽くして、白は、白のなかに、白を、やどし、呼んでいた。声がしていた。音はなかった。誰にも聴こえないくらい大きな声で。聴こえなかった。誰も答えなかった。何度も。ただ、見ていた。答えず。雪が降っていた。降っている。いまだに。

文学極道

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