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作品 - 20140206_395_7297p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


友を送る四つの詩

  前田ふむふむ

新生

  
          
わずかにからだがゆれている
冷気さえ眠る夜に
自分がふれた蛍光灯のスイッチの紐が
ゆれているのを見て
からだがむしょうにふるえてくる
ずいぶんと経たが
もうなおらない気がする

テレビでは
蜃気楼に映るような
痩せた牛が足を引きずりながら
道路を横切っている
廃屋の庭にはセイタカアワダチソウが
群生している
それは
うまれたばかりの空だ
その汚れない青さには
きっと
これから名前がつけられるのだろう

あれは何時だったか
みずのにおいを消し去った
なにもない瓦礫の野で
ひとりの男がなにかを探している
その寂しいすがたに
わたしは 明治四十三年
若かった民俗学者が
少年のような眼を
輝かせて
さがし紡いだ
若い女の幽霊に栞をはさんだ

曲がった家族アルバム
透明なランドセル
光りを無くしたモネの偽絵画
卓上時計のなかに咲いたみずの花

そして
残ったみんなで大きな柵をつくり
動けなくなった人を
木箱のなかにならべてから
純白の布で 身体を覆った

純白の布の
いさぎよい色は
きっと
このときのためにあるのだろう

おぼえている
昔 父の葬儀のとき
抱えた白い骨壺はとても冷たかった
あの純白は
これから歩いていくものだけが
もてるのだ

アオサギが泣き
わたしの足が西にかたむくころ
低い稜線が
すこしずつ
海に没している


葬送

       

夕日からきこえる声
噛み砕けば
冷たい雪が
ひとつひとつ積もるだろう
棺の
かわいた脈動に
耳をあてれば
その意志を
残された友の祈りが
束ねている

あなたの
やわらかい眼光が
砂のように
西方の地平に沈んでいる
腕でみがき
足で踏み固めた
その汗に
あなたの父母は
よわい
姿勢をかたむける

刻まれた傷跡は
むきだしの
教訓なのか
あかるいときのなかで
昇華される
そのひかりの粒が
芽になり
若い
大地に塗されていく

美しい
ひとりが
充たされた棺に手を添える
かつて
心臓が高鳴り
のぼりつめた肩に
引き潮の花を捧げよう
饒舌な
しずかさが
その亡骸を
みずのような太陽の
帆先へ
さしだしている

紡がれた大地の
紡がれた土の
紡がれた草の
その草の名前を
その草の出自を
   輝かせながら



追悼のうた

           

ことばのない土を
ことばのない空を
断崖が しずかに線を引く

その聳え立つもの
佇むわたしの踝は  
夕凪を握りしめている
その夏の 無効をうきあげる
屈折を
ひかりの遍歴を
灰色の意識でみたす
    対話を

きみたちの
もう見えない眼は 言葉の屍を
洪水のように流して
そうして 
あらわした柵を
限りなき内部へ
   沈めようとして

ならば
答えよう
杭をうたれた雨を
掬って 
冷酷な底辺に
暗くおびを敷き
その否定された内部の
血潮を

高く
敬意をこめて
さらに高く
きみたちの
旗として掲げよう




慰霊のうた





(ぼそぼそと誰かが呟いている)


















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