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作品 - 20140203_263_7277p

  • [佳]  lighter - WHM  (2014-02)

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lighter

  WHM

書いたって何にもならない。言葉が降ってくる。雪みたいに。ページが埋まっていく。溶けたら何にも残らないのに。空がそこにあった。色を変えていく。何色だった?何も残らないのに。忘れてしまった。確かにそこにあったのに。地球が回り続けるせいで。何もかもが軌道のなかに。冷たい熱となって。消えていくのか。

ピンクとジャンクが婚姻して、シャンパンとパンクは頭から液体が。次々と倒れていくだらしない体。ようやく玄関を開きながら飲み過ぎたワインを吐き出し、そのまま卒倒する君の。右の頬が赤いキリストの血に浸る。今日も水が透明だということに感謝しよう。真白い肌で、ヴァージンロードを歩むマリアの、鳴り止まない頭痛に祈りを捧げよう。パンとワインの、口から産まれた子どもたち。毛布と錠剤にくるまれて、愛は何色だったか?お前たちが産まれる前に。お前たちが産まれた後に。あの時何色の光に包まれていたか?駅前のドラッグストアで、煙草屋の跡地に、優しさはわかりやすく棚に並んでいるから、他人が並んだだけの僕たちは、並べ間違えてしあわせと口にした。

30歳まで生きるな。冗談みたいに笑う。笑うしかないみたいに笑う。お腹が筋肉痛になって、喉が潰れるくらいに、体を捩らせながら笑う。意味がわからなかった。わかるのが怖かった。笑い続けながら黙っていた。終わるのが怖かった。わかんねえー!わかんねえーわ!もう浩輔なんか隣で笑いながら怒っていた。叫んでいた。血が噴き出すみたいに。嗚咽した。何にもできなくなって背中を抱きかかえた。バカだった。聖書にだってこう書いてある。この本は燃えるゴミだ、海を越えて汝の土に埋めよ。ああ、今日って、何曜日だったっけ?

書いたって何にもならない。言葉が降ってくる。雪みたいに。頭のなかで。ひとつひとつが、落ちて溶ける瞬間の発光。小さな。言葉を燃やすための体。白いページ。君の頬。柔らかな。空がそこにあった。いつもそこにあった。いつもあったせいで忘れた。駅前の煙草屋はずいぶん昔になくなった。なんだか煙草が吸いたかった。君の指を思い出した。

文学極道

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