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作品 - 20131218_522_7193p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


To: Ineo Yatsuha

  NORANEKO

わたしの頭の中を這い
回る痺れの指の群れに
回されるまともが掻破
される冷や汗が垂れる。
滴る。

鉄の箱は平常運転で
果て無い辺獄の薄暮れを
水平に滑走する。

窓がふるえ、灰色
のシートの微睡みに
君の詩集の断編が
反響する。

『複数形の彼は問う、
「これでもか、これでもか、」と。
単数形の私が答える、
「それでもだ、それでもだ、」と。』*1

題名は、『生きる』だったよな。
なあ、カンパで本出して
ニーチェのパクりは駄目だろう。
等と、なじる術もないのだと、
気付いた、永遠の夕刻。

『僕は信じる、虚構にのみ棲息できる、真実の存在があることを。その表明に代えて、ここに、僕の人生初の詩集を刊行する。』*2

何故、吊革なんて、握ってるんだ。

◆◇◆◇

*:八つ葉 稲雄『不壊、往く。』(扶財出版,2000)より。

1:詩『生きる』より引用。

2:序文より引用。

彼がこの世にないことを、今になって噛みしめている。

◆◇◆◇

ここから、八つ葉 稲雄の来歴を述べる。彼は2013年12月中旬にわたしが思い付いた名前にすぎない。むろん、引用された詩句も、序文も、引用元の詩集も同様だ。が、あなたとわたしの脳裡に灯るクオリアの幻像はそれらを補完してある一種の可能態としての八つ葉 稲雄という人物を思い描き、一冊の詩集『不壊、往く。』を各々に具現せしめたのではなかろうか。より想像力のたくましいあなたならば扶財出版なる非実在出版社の建物と事務所と働く人々を想像したろう、おぼろ気にもイメージを伴って。その淡く綻ぶ輪郭の揺らぎは、まるであの薔薇園に舞う木霊のように、あなたとわたしの通らなかった道を掠めて行く。風が止み、わたしたちの、可能態にすぎないものらが歩く。ありもしない過去の記憶を連ねて、現在を、横切ってゆく。それをわたしたちが眺めているのだとも知らず知らずにそれらは三叉路をそぞろ歩く。歩く。
歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。
歩く。   騒
歩く。 騒      
歩く。  騒 
歩く。 騒
歩く。    騒
歩く。   騒  騒 
歩く。     騒
歩く。       騒 
歩く。      騒 
歩く。         喪、この藍に濡れた文字を身に塗り夜に紛れる。するとほら、わたしはこの帷の何処にでも存在しうる。あなたの認識において、わたしは蓋然性の塊になる。あなたの靴底が擦ると(今や舞台は夜の道だ。)、軽やかな音色を立てる金網の下の空洞を流れる水から、もし、囁きのようなものが聞こえたとしたら、わたしかもしれない。わたしはあなたの夜の靴底を流れる一編の音声詩になったのかもしれない 。もはやこの騙りに意味はない。所詮、神さまごっこにすぎないのかもしれない。だがね、あなたがどう読むかで、わたしの言葉は玉虫色にその価値を輝かせるかもわからない。そのために、わざわざ読めない詩句として開いてるのだから。この帷の隙間、夜の向こうで綾取りをする黒子たち。あれはわたしたちの影だ。あの悪戯なくすくす笑いも。

◆◇◆◇

鉄の箱はふるえながら
非実在のカーブを
曲がりきれない。
座席にうずくまる、わたしの
名前の背中に糸が見える。
疑問符のかたちに、身体を
叫ぶように捻る。

文学極道

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