けっきょく容量の問題
と 夢の受話器ごしに聞いた
看るということばの意味なら
知っているような気がする
辞書をひろげたら
ちぎった蝶の羽を散りばめて
ヒメシロチョウ ツマキチョウ
それから ミカドアゲハ
(とうぜん わたしは父の名を知らない)
さいごに モンキチョウ
硝子玉と曇天が受精して
チョウが生まれたと
イカれた妹におしえたことがある
たぶんどうでもいい感じに
産み落とされたことについて
どうでもよくないと思う青年がいて
雨に打たれたような肩と、背と
蒼ざめた 青年の舌苔
それは 時給に換算したら
いくらになるの と聞いても
乳母車は 凍てついてる
としか答えないから
その責任は と聞きかけて
薔薇の花をむしって 逃避する
わたしの 幼いころからの悪癖
つまり折り返し地点は無限にあって
青年が その蒼い舌苔を抱えて
(ゆびおりかぞえても えいえん)
という 言葉を呟いて飛び降りても
わたしは注意深くえいえんを
ルーペで観察するだけなんだけれど
母の黄色くにごった眼に
薔薇の花を浮かべると すごくきれい
これが救いなら 死んだほうがまし
って言ったら去勢されるような気がする
季節の移行に 胸を切開されて
いつのまに 詰め込まれてる認識は
わたしを帰ることができないところまで
バスに乗せて薔薇が咲き乱れるところまで
連れていくから 悪意はいつも
鮮やかに プリントされて 容量不足になる
ここらで バラの花 母の眼に浮かべて
夢の受話器に耳を澄まし
看る、からいちばん
とおい世界へ
行きませんか
身体の紛失でもけっこう
もう、わたしの舌苔は腐敗しているから
(ゆびおりかぞえても えいえん)
愛ということばの意味なら、知っているような気がする
最新情報
選出作品
作品 - 20131028_779_7100p
- [佳] 夢よりきれいなところ - 深街ゆか (2013-10)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
夢よりきれいなところ
深街ゆか