磨りガラスの向こうの公園で
外国人に話しかけられた
どうやら、フランス語らしいが
何を言っているのか分からない
家に帰ると母親が叫んでいた
ひとつひとつは意味のある言葉
けれど、つなげると耳に入らない
彼女は歌い方を忘れてしまった
テレビを付けたら色とりどりの人たち
カメラ目線で得意気に囀っている
でも、相変わらず理解できない
ぼくの方がおかしいのだろうか
病院へ行って医者に話をした
彼は首を傾げて僕を見ている
そして、ようやく口を開くと
様々な動物の声で鳴き始めた
ぼくは途方に暮れて街を歩いた
その時どこからか、ぼくを呼ぶ声
道路の向こう側に彼女はいた
「あたしのことを憶えてる?」
にこやかに笑う顔を見ても
なぜかパーツを識別できない
それでもぼくは道を渡った
車は一台も走っていなかった
そのことに気がついた途端に
ぼくは車というものを忘れた
彼女は、ぼくを待っていてくれた
とても懐かしい匂いがした
ぼくは泣きたくなって笑い出した
そして鼻の使い方を忘れた
心配しなくてもいいと彼女は言った
愛も、憎しみも、希望も、数式も、
すべてが生まれた海に還っただけ
そして私たちはもっと散らばるの
とても懐かしい見知らぬ彼女は
すぐに風景と見分けがつかなくなり
自分の存在を忘れてしまったぼくを
スカートの中に飲み込んで消えた
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選出作品
作品 - 20131008_462_7067p
- [優] バベル - 无 (2013-10)
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バベル
无