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作品 - 20130803_692_6983p

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森の夢―古いボート

  前田ふむふむ

     1

青い幻視の揺らめきが 森を覆い 
緩んだ熱を 舐めるように歩み 
きつい冷気を増してゆく
うすく流れるみずをわたる動物は 息をころし
微風をすする夜に 眼を凍らせる
昏々と深みを低める いのちの破片が
夜の波に転がり
静かな夢の温みへ動きはじめる

     2

みずうみは 湖面を空よりも高く
持ち上げては ひかりの眼差しを
水鏡の四方にくばり
穏やかにわたしの躰を 透過してゆく
そのみずの透明なやすらぎに
涙を弛めているわたしの孤独なこころよ
今 永遠が爽やかに繋がっている

     3

青い時間の空隙を埋めるように
一艘の古いボートが湖岸で眠っている
かつては、恋人たちが乗り 愛を語り合い
親子を乗せて喜ばせただろう
今は 打ち捨てられて
船底には大きな傷口が開いて 
萎えた体液を溢れさせている

傷口は傷むか 悲しいボートよ
おまえは 今日も 
そこで朽ち果てたままで眠っているのか

時間の一ページが剥がされて
ゆらゆらと空を舞う
青い月を煌々と照らす夜が
翼を大きく広げて
美しい娘がおまえに乗って みずうみを流れてゆく
月に導かれながら 湖面をゆっくりと弧を描いて
時折 夜の気まぐれが 強い風を吹かせて
おまえは 勢いよく進むが
森の硬質な赤い血がざわめいて 風をたしなめる
ふたたび おまえはゆっくりと湖面を歩く
娘の 繊細な櫂の動きに合わせて
夜のとばりが醒めるころ
娘を乗せる 白い馬がみずを飲みに来るまで
おまえの優しい夜は、永遠を流れつづける
過去の鮮やかなページの中で

     4

名もない鳥が飛ぶ
  みずの音が、わずかに聴こえる
    みずうみは 森の靄のなかで 孤独に佇む

       
零落する秋が 枯野にとどまるわたしに
失われた遠いひかりを抱かせる
目覚めはじめる朝が 指先に立ち上がり
思わずわたしの鼓動に 微熱をあたえるが
砕けた夢からは 寒々とした流砂が 零れおちてゆく

美しくみずのように癒されたい

曲折する願望は 森のいのちを刻む
みずのたおやかな静けさを
わたしの 冷めた呼吸のなかに浸して
滑らかな岩を撫でる 清流の意志に身を沈める

森の戯れとともに沈む 眠りの空は
わたしの鮮やかな視野を 飲み込んで
森は 夢を もえる緑野のなかで閉じる

うすい陽だまりがうまれて
鶏が、忘れた鳴き声を上げる

文学極道

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